21~22年秋冬パリ・メンズコレクションは終盤、ビッグブランドのデジタル発表が相次いだ。さすがに有力ブランドらしく、デジタルといっても、服のクオリティーを感じさせる映像に仕上がっている。その中で、ダブレットがフィジカルとデジタルの差を逆手に取ったコレクションを見せた。
(小笠原拓郎)
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ダブレットが夜の雨の屋外のショーを敢行した。会場となったのは、横浜の郊外にあるリサイクル工場。一斗缶にたかれたかがり火が、冷たい雨の下で集まった観客を照らし出す。
ショーは、まずワークウェアとヘルメットをまとったデザイナーの井野将之が登場して、あいさつをするところから始まった。その後はモデルたちが後ろ向きに歩いて後ろ向きに去っていくという演出。その背景では、巨大な重機が自動車やスチール家具を次々と鉄くずに粉砕していく。そのショーの意図を考えていると、やがて逆回しの映像を作るつもりだと分かる。ショーが終わった後に、その映像を逆回しで再生すると。モデルたちは普通に歩き、最後にデザイナーが登場するという映像になる。しかしモデルの背景は、潰れた自動車や家具が重機によって再生されているように映る。モデルが投げ捨てたコートが、逆廻しの映像ではモデルに向かって飛んでくる。雨の中、屋外でショーを敢行したのは、どうしてもこのトリックアートのような映像を作りたかったのであろう。服はといえば、ほっこりとした動物のぬいぐるみを飾ったアイテムが充実した。アウトドアイメージのダウンパーカもフード部分がパンダの顔になっている。デジタル映像とフィジカルなショーの現場が、逆回しというテクニックで入れ替わる。それが、現実とデジタルのアイロニー(皮肉)を描いているようで面白い。