21~22年秋冬パリ・メンズコレクションは終盤、ビッグブランドのデジタル発表が相次いだ。さすがに有力ブランドらしく、デジタルといっても、服のクオリティーを感じさせる映像に仕上がっている。その中で、ダブレットがフィジカルとデジタルの差を逆手に取ったコレクションを見せた。
(小笠原拓郎)
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ジル・サンダーは、むき出しのコンクリートの通路をモデルが歩く映像を見せた。その閉ざされた空間の光と影の中で、エレガントな男性像を描いた。上質な素材感のコートや柔らかなニットの襟に、メタリックなネックレスを重ねていく。コートは襟やポケットフラップが誇張され、ダークなムードに冷たいメタリックな光が重なり合う。シャープなスーツにはメタリックなジップポケット、そこにニットポロの大きな襟がコントラストを作る。ジャケットやニットには大きな女性のポートレート写真が縫い付けられている。それは1920年代にフローレンス・アンリが撮影したバウハウスの女性アーティストやデザイナーたちのポートレートだ。シンプルなセットアップには襟元のスカーフがアクセントとなる。足元は、底にボリュームのあるブラックパステルやライラックの膝丈ブーツ。ボリュームのあるコートに対して、スリムなボトムのシルエットを作り出す。ルーシー&ルーク・メイヤーのデザインの核となる「相反するものの共存」を元に、新たなフォルムとシルエットを探ったコレクション。
ロエベはジョナサン・アンダーソンによるコレクション解説の映像を配信した。秋冬のインスピレーションとなったのは、作家でアーティストのジョー・ブレイナードの作品。花のプリントや花のコラージュを散りばめたアイテムが充実する。「JWアンダーソン」のラインと共通するのは、スクエアな布でわたりにボリュームをとったパンツのシルエット。TシャツとTシャツ、ポロシャツとポロシャツを合体させたアイデアも取り入れられた。たくさんのベルトとバックルを飾ったパンツは彫刻のようなシルエットからイメージしたが、パンクの時代のボンテージパンツのようでもある。ロエベらしい上質なシアリングのコートも存在感がある。
エルメスは螺旋(らせん)階段を上り下りしながらモデルたちが出会う演出で新作を披露した。前回に続き巧みなカメラワークで、エルメスのクオリティーを強調する。秋冬は、まずその微妙な色使いに驚かされる。サンドカラーとグレーが混ざり合ったような色、グレーとブルーが混ざったような色、ピンクとブラウンが混ざったような色。なんともいえない微妙なトーンを上質な素材感と組み合わせていく。カリッとした寒色系のコーディネートとオレンジやブラウンの温かみのあるコーディネートがある。ぬめりのあるレザーブルゾンやシアリングブルゾンのグラフィカルな切り替えで上質さをアピールする。合わせるパンツは、わたりにやや余裕を持たせたシルエット。いくつものポケットが重なるようにステッチされたマルチポケットシャツは、そのディテールが可愛い。チェックのパーカとタイトなトップのアンサンブルもエレガントなコーディネート。イエローやピンクのスニーカーで軽やかなスタイルを強調した。