【パリ=小笠原拓郎、青木規子】20~21年秋冬デザイナーコレクションは、クラシカルなドレスのエッセンスを取り入れたデザインが前シーズン以上に広がっている。スカートを大きく丸く膨らませるクリノリンシルエットやクチュールライクなテントライン。バロックやロココのデザイン様式を背景にした装飾的なデザインが、ボリューム袖やフリル襟に生かされている。
(写真=大原広和)
【関連記事】20~21年秋冬パリ・コレクション「コムデギャルソン」抽象化された服の概念が描く静寂
バレンシアガのショーが始まると、真っ黒な会場に水が満ちていることに気付かされる。観客席は前の方のシートが水没している状況で、モデルたちは水を跳ね飛ばしながら歩いてくる。水没したランウェーの一方で、天井には様々な映像が流される。雷鳴とともに暗闇の中に稲妻が走り、豪雨が終わると夕暮れに鳥が舞う空が映し出される。
幻想的な空間で描くのは、デムナ・ヴァザリアらしいダークで毒のあるスタイルからストリートの軽快なスタイルまで。黒のフレアコートに大きなショルダーのコートやギャザードレス、とげが目いっぱい刺さったトップにラテックスのコートなどダークカラーのエキセントリックなアイテムが次々と登場する。
ブラックやパープルの落ち着いた色の一方で、バイカースーツは明るいブルーや白。赤いパテントのボリュームドレスはバックにボウを飾る。スパンコールのボディースーツからサッカーのユニフォームまで、この間のバレンシアガよりもさらに商品の振れ幅を感じさせる。
ショーの後半に天井に映し出されるのは、真っ赤な炎や青い地球の映像。どこか終末論も感じさせる壮大な演出だが、これだけ災害が続く昨今の世界では受け取り方も人それぞれであろう。この秋冬は様々なブランドが、ショーの演出によってファッションの楽しさをアピールしている。
ニューヨークの「マーク・ジェイコブス」、ミラノの「グッチ」も演出にこだわった。それをポジティブに感じられる場合もあるのだが、一方でもっと純粋に〝服の力〟で感動したいと思う自分もいる。あえてショーで見せる以上、ショーでなければ感じられない新しい魅力を伝えたい意図は分かる。しかし、ショーが服の魅力を伝えることよりもエンターテインメントが前に出すぎると、ファッションショーではなく演出家の作品になってしまう。これからの服の見せ方、ショーの在り方を改めて考えさせられる。
◆続きは繊研新聞・電子版で