【パリ=小笠原拓郎】19~20年秋冬パリ・コレクションは、老舗ブランドのリニューアルが目立つ。ちょうど、デザイナーの交代劇のタイミングで、そうしたショーが増えているのだろう。しかし、やはり賞賛を集めるのは、オリジナルの世界や技術を背景に力強いコレクションをするブランド。今の時代の新しい価値や美しさをどう描くのかに挑んだデザイナーは、時代の扉を開けて一つ前に進んでいる。
(写真=大原広和)
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コムデギャルソンは、パーツを重ねた迫力のスタイルを見せた。服の概念の外側にある象徴のコレクションから、内面へのデザインへと転換したのが前シーズン。コムデギャルソンの精神性をデザインすることの苦しさや痛みをひりひりと感じたコレクションだった。それに比べると、秋冬は軽々とその精神性をデザインしているようにも感じられる。
何かの見えない力によって照らされるような上からの光、パイプオルガンの重厚な音。黒のキルティングの立体的なコートに大きく膨らんだブラックスカート、コートはフロントがばっさりと切り取られる。ブラックドレスのフロントにボウが揺れ、バックにはシルバーアイレットのパーツが鈍い光を放つ。
切りっ放しのフェイクレザー、フリルドレスにかぶさるラバーの甲冑(かっちゅう)パーツ、ハーネスのようなパーツのレイヤード。コート、ジャケット、ドレス、様々なアイテムが単品アイテムとしての存在を切り取られ、重ねられながら、一つの塊となってパワーを宿す。エンジェルのオブジェなどのメタリックなチャームが服に留められ、黒を軸にした光沢や透け感の重なりが荘厳な気分を運ぶ。
なぜ、この服に得体の知れない力が宿るのか。それをどう説明したら良いのか。改めて不定形のフォルムが持つ力に驚かされる。そのアブストラクト(抽象)なフォルムは、決して無作為に作っているのではなく、全て計算し尽くして作っているようにしか思えない。どこをどう切り、どう膨らませ、どこでデザインを止めるのか。アンフィニッシュの持つ力、服の断片を重ねることで宿る力を川久保玲は全て計算している。
問題は、この混沌(こんとん)とした美しさを言葉で説明する難しさにある。コムデギャルソンの精神性や不定形のデザインの持つ力に、言語はどこまで拮抗(きっこう)しうるのか。それはジャーナリズムにとって積年の課題だが、秋冬はそれを痛感させられた。
ヴァレンティノは1月のメンズコレクションに続いて「アンダーカバー」と協業し、アンダーカバーのグラフィックをエレガントなラインにのせた。会場にはロバート・モンゴメリーの詩のオブジェが掲げられ、座席に詩集が置かれている。抱き合う2人の彫刻にバラのグラフィック、宇宙のモチーフのプリントとともにロマンティックな気分を運んでくる。
シルクシフォンにジョーゼット、ダブルフェイスカシミヤ、チュール、ヴァレンティノらしい繊細できれいな色のドレスやコートにグラフィカルなプリントやアップリケ刺繍、象眼(ぞうがん)細工がのせられる。
ヴァレンティノの圧倒的な手仕事の美しさは、時にクラシックに見えすぎてしまうこともある。1月のメンズの時にも感じたのだが、アンダーカバーのグラフィックと手仕事を組み合わせることで、ヴァレンティノの美意識が軽やかなモダンさをまとった異なる魅力を放ち始める。
バックに流れるのは「夢路のテーマ」「ロミオとジュリエットのテーマ」といったロマンティックな映画音楽。モダンでエレガントなドレスとともに、はかなく美しい世界を描いた。