震災1年 復興はまだら模様 One Year on from the Earthquake-Recovery Remains Patchy

2012/03/01 07:40 更新


 2011年3月11日午後に発生した東北地方太平洋沖地震からもうすぐ1年。震災は、16年前の阪神淡路大震災より人的被害も被災エリアも格段に大きく広く、地震に伴う福島第一原子力発電所の事故やその後の度重なる余震など、被災地域だけでなく、日本全国に大きなショックを与えた。ーー繊研新聞の英字版「THE SENKEN」の2012年3月1日発行号より(原文)

 規模の巨大さもあって、世界の国々や団体、法人から個人までもが、支援の手を差し伸べる一方、被災者も相互扶助の精神や規律だった行動で応え、二次災害を引き起こすようなパニックを防ぐことができた。そのため、1カ月半後の大型連休前には落ち着きを取り戻し、被災地で止まっていた経済活動もじわり動き始めた。

■ミニバブルの様相

 復興に伴い、建設や製造、不動産などの景況感は改善し、個人消費も活発になって内需を下支えしている。とりわけ、東北の中枢都市・仙台市にはヒト、モノ、お金が集まり、ミニバブルの様相を呈している。法人・個人の家賃は上昇し、小売り業の多くは3.11前の売り上げを超えている。原発事故の余波で人口流出に苦しむ福島県の商都、郡山市も小売り段階の数字は悪くない。

 日本損害保険協会によると、2月1日現在、地震被害で支払われた保険金は、宮城県と福島県あわせて約7100億円にのぼる。原発を有する東京電力も、事故被害の賠償金として約3700億円を支払った(2月7日現在)。本来、生活再建の原資である保険金や賠償金の一部はショッピングや娯楽などの消費に流れている。

 2011年度の補正予算と2012年度の本予算で18兆円もの復興費が投じられることもあり、被災3県の全体景気は上向くものと思われる。

 もっとも、当然のことながら業種ごとにはバラつきがある。例えば、福島県では、農畜産業や観光は大打撃を受けているが、建設や小売りは復興予算の恩恵に浴するだろう。エリアで見ても、津波被害の大きい沿岸部や原発事故が影を落とす地域などは、先の見通しが立たない。震災から1年経過するも、復興は地域ごと業種ごとで、“まだら模様”を描く。

■もっと仕事を、もっと関心を

 東北地方は、繊維ファッション業界と密接な関係があるエリアだ。テキスタイルやニットの産地であり、縫製委託加工業も多い。それだけに、被災したり、原発事故の影響で今だに苦しんでいる会社は数多(あまた)ある。

 事故原発至近にある縫製工場の集積地・福島県の相双地区は、得意先である大手アパレルが継ぎ目なく仕事の注文を出しているため、現在のところ何とかやりくり出来ているが、同じ県内でも、風評被害で日を追うごとに注文が減り、「時間が3.11から止まったまま」と嘆く工場もある。「会社が(隣の)栃木県にあれば良かったのに…」と冗談交じりに話す県境の縫製工場の社長は、工場ごと他県に移ることも検討しているという。

福装21の笠原忠雄社長
福装21の笠原忠雄社長

 相双地区とて薄氷の上での経営には変わりなく、マクロ経済が悪化すれば大手の得意先も発注を控える可能性も否定できない。

 福島の原発問題は根深い。東北の沿岸部で津波による塩害で稲作が出来ない田んぼに、塩害に強いコットンを育てるプロジェクトを進める団体は、採れたコットンを製品にしてこの春から一般販売するが、「安全性が担保されているのか」など、ホームページにヒステリックなメールが寄せられているという。国や東京電力への不信感から、脱原発運動が盛り上がっており、目に見えず、匂いもない放射能に対する過剰とも思える反応が万延している。

 国内で急成長するある専門店チェーンは、3.11以後、自社ブランドの縫製委託を優先的に福島の工場に廻していたが、そのことがテレビで報道されるや、製品の安全性に対してクレームをつける客が後をたたないという。福島の繊維産業の衰退の道を、そんな「善意」が舗装している。

 震災から1年が経過し、被災地への感心の薄れも目立ってきた。福島の原発でつくられた電力の多くが首都圏に供給されていたことに心を痛めた首都圏の住民も、今や関心は脱原発や消費増税の行方に移っており、震災の風化が懸念されている。全国社会福祉協議会によると、震災から約10カ月で、被災3県で活動するボランティアの人数は、ピーク時の10分の1にまで減少しているという。

 2月になってようやく復興庁が発足したが、本庁は被災地から遠い東京に置かれるなど、すでに2重行政の懸念が指摘されている。このほど発表された仙台市民の意識調査でも、約8割の市民が国の対応に不満がある、と答えている。国に頼れず、一般国民の関心が薄まるなか、震災からわずか1年で、被災地復興のハードルは高くなってきた。
By THE SENKEN



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