ダブルエックスデベロップメント 動画配信で“顔の見える縫製工場”へ ファクトリーブランドが軌道に

2022/03/14 06:26 更新


 縫製工場は一般的に物作りを支える黒衣のイメージが強いが、ダブルエックスデベロップメント(岐阜市、戸谷太一社長)はものづくりを担う自分たちが前に出てファンを増やすことに成功している。インスタグラムの動画配信機能IGTVを活用し、週に1回、顔を見せて自分たちを売り込む。SNS全盛の今、〝顔の見える生産者〟となることは縫製工場に新たな生き方の一つになる。

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 ファクトリーブランドを立ち上げたのは3年前。岡山産地のデニムを使ったワンウォッシュ加工のデニム製品「ノーコンプライジーンズ」、カットソートップが中心の「シュアーマニュファクチャリング」など三つのブランドを一挙に立ち上げた。「ゆくゆくは10ブランドまで立ち上げたい」(戸谷社長)と考えていたが、現実は厳しかった。

「作るのは俺たち」

 大手ブランドと比べると、知名度が低く、ファクトリーブランドというだけでは、周囲に埋没してしまってなかなか売れなかった。そこで「どうすれば売れるか」を真剣に考えた。行きついたのが、「作っているのは俺たちだ」。それは、ものづくりをしている自分たちが前に出ることだった。

 IGTVを活用し「お裁縫男子」の配信を始めたのが20年9月。縫製工場の2階のショップスペースをスタジオにして開始した。登場するのは戸谷社長と吉川健大郎工場長の2人だ。

 一般的にファッション企業がIGTVで配信する場合は、新作アイテムやブランド紹介、コーディネート提案などで構成するケースが多いが、同社は第1回目から違った。自分たちの生い立ちから始まり、なぜ縫製工場を経営しているのか、なぜ工場で働いているのかなど自分たちの人となりを伝えた。以来、週に1回以上、ミシンで服を縫っている様子を配信したり、「TCBジーンズ」の井上一代表をゲストに呼んだり、現在進行形で企画している新作の話もし、時には「話す内容が決まっていなくても配信した」。とにかく、自分たちを知ってもらい、その上でブランドの特徴や商品などを伝えるようにした。

「お裁縫男子」はもうすぐ配信100回目になる

 型にはまらない独自配信スタイルと2人の独特な掛け合いが人気を呼び、フォロワーは2000人を超え、再生回数も安定して1000以上になるようになった。配信は既に90回を超え、100回を目前にする。毎回コメントで応援や服に対するメッセージが寄せられる。時々行う、ライブでオーダーを取ることもしばしばだ。配信時間も最初は15分程度だったが、今では長いと2時間を超えるようになった。

 それに伴い自社EC販売の売り上げも増加。それまでは数十万がやっとだったが、IGTVを始めてから、徐々に伸び、安定して200万円前後を売り上げるようになった。月最高売上高は300万円。35歳から45歳の男性客が中心顧客として定着した。1カ月に1、2型の新作を出す。商品を発送するときは戸谷社長自ら、手書きした手紙を入れる。それを見て、購入客がリピーターになることは多い。

日本人だけで運営

 同社の設立は03年。元々、BtoB(企業間取引)向けのリフォーム企業で働いていた戸谷社長が個人事業主を経て、独立して立ち上げた。戸谷社長を含めて、現在6人の縫製工員が働く。工場長の吉川さんが30代で最年少で、40代が中心の職場だ。

吉川工場長(左)が中心となり少数精鋭で自社のブランドはじめ、ものづくりをしていく

 今は日本人だけで運営しているが、岐阜の縫製工場に多い技能実習制度を活用して工場運営をしたことが無い訳ではない。中国とカンボジアから実習生を招いて、縫製加工賃でのOEM(相手先ブランドによる生産)を生業としていた時期もあった。

 ただ、文化の違いのほか、実習生の出身国と日本との租税条約によっては住民税などの課税が免除されるケースがあり、日本人工員と給与面で逆転現象が起きることなどが、腹落ちしていなかった。自分の性に合わない――。そう思い、実習制度の活用をやめ、日本人だけで運営する縫製工場に転換した。

 OEMによる縫製加工賃が主力だったが、売り上げのベースを徐々に自社ブランドにシフトした。OEMについては、今はほとんど受けていない。受ける場合は「マインドが合うか」を大切にする。無名でも、面白い服作りをしていたり、自分たちの得意な技術が発揮出来るブランドの仕事だけを精査して受けるようにしている。

 今後、企業として「社員に夢を与えたい」とし、規模拡大も視野に入れる。まずは、現在戸谷社長が担っているブランド企画を現場の社員に徐々に任せていくことなどを考えている。

「社員のためにも今後会社を成長させていきたい」と語る戸谷社長

《チェックポイント》独自のサステイナブル素材も開発

 自社ブランドを展開する傍ら、サステイナブル(持続可能)な取り組みにも力を入れている。その一つが、サステイナブルプロジェクト「リサイクルループ」だ。同社の綿生地の裁断を依頼している企業の協力を得て、裁ちくずを回収。外部企業の協力を得て、反毛し、糸・生地に再生して、Tシャツ、スウェットプルオーバーなど製品に生まれ変わらせる取り組みだ。裁ちくずはこの秋冬だけで600キログラムが出ていたという。

 リサイクル糸だけでは強度が弱く、バージンコットンとミックスして糸を生産。約半年かけて21年秋冬に初めてTシャツをリリースした。価格は利益度外視で4400円(税込み)に設定。今夏にはさらに新作を出す予定でいる。ほかにも、ものづくりの過程で生まれる試験反、本生産用の生地から出る裁ちくずを使ったアパレル製品「サープラス」シリーズも展開している。

「リサイクルループ」を使ったTシャツ

《記者メモ》謙虚さと行動力が成功への道

 ファクトリーブランドの本当の難しさは立ち上げることではない。顧客を作り、軌道に乗せることだ。SNSが発達している分、発信しやすくなった一方で、よほどの特徴がなければ埋没してしまう。だから縫製工場は、クラウドファンディングをはじめ既存のプラットフォームを活用するものの、継続的なブランド運営につなげるのは容易ではない。

 戸谷社長は「ブランド力がまだ低い」ことから目をそらさず、解決方法を探った。その謙虚さと行動力が「お裁縫男子」を生み、ファンを作った。「まだ、成功する手前」と話す戸谷社長。間近に迫った配信100回目を楽しみにしている。

(森田雄也)

(繊研新聞本紙22年2月9日付)

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