【洋服を長く着続けるために】お直しの疑問に答えます㊦

2020/02/09 06:28 更新


 洋服の廃棄が大きな問題になる中、使い捨てを前提としたファッションから脱却することが求められるようになってきた。小売店頭でも売りっぱなしで終わりではなく、アフターケアをしながら長く着続けられることこそがサステイナブル(持続可能)な取り組みと言えるだろう。

 スーツの裾上げからカジュアルウェアの補正、コーティングのメリット、新たな価値を生み出すリメイクまでお直しのサルト(檀正也社長)に最新事情を聞いた。

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Q.女性の服はサイズ補整というよりもリメイクに近いニーズが増えていますか?

A.愛着ある服に新たな価値を吹き込む

 レディスの場合、別のアイテムの袖を付け替えるなど、作り直して用途まで変更してしまうような要望が増えています。シルエットやデザイン面では古くなってしまったが、愛着があり手放したくない思い出の服をリメイクでよみがえらせ新たな価値を吹き込むことが求められています。

 ウェブサイトの事例紹介にもありますが、レトロなイメージのワンピースの袖を取り外し、ノースリーブにするとともに、前合わせを大胆にカットしてカシュクールワンピースにリメイクします。さらに、お客様の身長に合わせてウエストの切り替え部分(ウエスト位置)を数センチほど上に移動させ、ウエストのギャザーのボリュームを大幅に減らしました。それによって軽やかなリゾートカジュアル風のアイテムに生まれ変わりました。

 また、ロングチェスターコートを小柄な女性の体形に合わせるため、肩の縫い目から着丈を詰め、ウエストの位置、ボタンの位置、ポケットの位置を数センチほど上に移動させ、バランスを崩さずにサイズとシルエットをダウンさせることも可能です。

 女性のワンピースでは微妙な丈の調整が大事になります。女性の体は男性よりも凹凸があり立体的で丸みを帯びているため、フィットさせるには高い技術が必要になります。脇の開きを直す際、個々人の胸の厚みで変わることを認識していなければなりません。

レディスのコートをマントにリメイク

Q.コーティングサービスをするとどういうメリットがありますか?

A.長く大事に着るには欠かせません

 数年前からビジネススタイルは一変しました。リュックスタイルが当たり前となり、肩や背中など接触する部分の摩耗が目立つようになっています。さらに自転車通勤も増えているため、股の擦れなども増えています。

 また、着方の変化で従来目立たなかった汚れも気になりだしました。最近はジャケットの下にTシャツを合わせるスタイルが増えたため、夏に襟回りの汚れが際立つようになりました。秋冬よりも淡い色の素材を着ることが多い盛夏だからこそ、汗じみや汚れが気になってしまいます。さらにファッションの流れから春夏は白のパンツやスニーカーをコーディネートに取り入れる人も多くなっているので、汚れが目立ちやすくなっています。

 これらの問題を解決するため、19年春からコーティングサービスをスタートしました。着用する前に撥水(はっすい)加工することで、耐摩耗性はウールの2.5倍になり、汚れも付きにくくなります。UV(紫外線)加工では白い服などの日焼けも防げます。通常、コーティングした場合、素材の風合いが損なわれることもありますが、当社のサービスは、コーティングの専門企業と共同で研究・開発したオーダーメイドの液剤を使用しているため、上質でデリケートなウールの性質は変えずに長持ちできるようになります。

撥水加工のコーティングサービス

■思い出の服をよみがえらせる

オーダースーツ・リフォームテーラーのサルト 檀正也社長

檀正也社長

 「良い服をいかに長く着続けてもらえるか」を追求するサルトは洋服のお悩み相談所として、テーラードの縫製技術をベースにお直し・プラスアルファのサービスを提供する。他社で断られた服でも対応できる解決手法の引き出しの多さが強みでもある。良い服とは高級品に限るわけではない。持ち主の思い出が詰まった服を現代によみがえらせ、継承していくお手伝いをすることが重要な時代になってきた。

 近年、お直しの中身が変わってきました。小売店頭で服が売れる時期はお直しも忙しくなるのが常識でした。だからセールの時期も当然忙しかったのですが、最近では以前購入したものの出番が少なくたんすの奥に眠っていた服、〝たんす在庫〟を持ち込む人が増えたので、来店時期も比例しなくなっています。

 少し前までは、流行遅れになったゆったりサイズのスーツを当時人気だったタイトフィットに変更してほしいというサイズに対する要望が多かったようです。今はもっと古い、諦めていたバブル時代の良品を持ち込む人が増えました。オーバーサイズが主流となった現在の若い世代は親が昔着ていた服を抵抗なく着る人が増えました。父や祖父の服を着る息子の方がカッコイイという価値観に転換しています。女性も同様です。市場にモノがあふれている反動から語れる一点物に価値を見いだすようになってきました。これには古着ブームの影響もあるのでしょう。結婚式に出席するための服を中古で購入し、終わったらフリマアプリなどを使い売ってしまう。所有にこだわらず、必要な時だけ着られればいいという考えの人が増えています。中古の服を売り買いする際、状態が良いに越したことはないので、お直しとCtoC(消費者間取引)は親和性が高いと思われます。

 紳士服市場でのオーダーブームを反映し、既製スーツよりもオーダースーツのお直しも急増しています。本来、オーダースーツはサイズやフィット感を注文する顧客好みにカスタマイズできるのが強みのはずですが、きめ細かく顧客の要望を聞き込めていないため、このような矛盾が生じることもあるのでしょう。店頭のフィッターとの相性の問題が大きいと思います。当社で仕立てられるオーダースーツは「長く付き合っていきたい」との思いから〝10年保証〟を付けています。体重増減によるサイズ補正やボタンの修理などに対応します。

 販売したら終わりではなく、メンテナンスの悩みにも答えなければなりません。10年着てもらうために、19年春からコーティングサービスを始めました。着用する前に撥水(はっすい)などの加工をすることで、長持ちし、汚れにくくなります。コーティング専門のワンライン(東京)と共同開発したサービスになります。天然素材の風合いを重視した本物志向の顧客からは好評です。今後はクリーニング企業との協業も視野に入れ、メンテナンスをトータルで提案できるリアルな場作りを目指します。

(繊研新聞本紙20年1月27日付)



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