洋服の廃棄が大きな問題になる中、使い捨てを前提としたファッションから脱却することが求められるようになってきた。小売店頭でも売りっぱなしで終わりではなく、アフターケアをしながら長く着続けられることこそがサステイナブル(持続可能)な取り組みと言えるだろう。
スーツの裾上げからカジュアルウェアの補正、コーティングのメリット、新たな価値を生み出すリメイクまでお直しのサルト(檀正也社長)に最新事情を聞いた。
Q.紳士スーツの裾上げや袖丈を詰める場合、何に気を付けたらよいでしょうか?
A.きれいなシルエットを保つように補整
まず、店頭でスーツをお客様に販売する時点から、どのサイズを着用してもらうのがベストかを考えるべきでしょう。少し大きめを詰めるのか、少し小さめを出すのかで着用したスーツの印象が変わってきます。テーラードスーツは横方向の生地寸法の出し入れは比較的容易なのですが、縦方向の調整には制限があるということを意識しておく必要があります。例えば、サイズ48がジャストフィットだった場合、若々しく見せるならサイズ46でウエストを出すことをお薦めします。
また、袖丈をたくさん詰めるお客様には袖口のシルエットが太くなってしまうので、元のシルエットになるように狭く補整します。袖口のボタンも本切羽風に付け直せます。ボトムの裾上げも同様で、きれいなシルエットを保つため、膝の位置を上げるように補整します。ふくらはぎに裾がとられがちな時は裾の後ろ側を長めにしたモーニングカットを薦めることも多いです。そうすることでスラックスのシルエットが落ち着きます。
補整する以前に正しい着方を教えることで解決することもあります。30代の男性に多いのですが、今のトレンドでもある股上の深いパンツをはく際に、若い時の腰ばきする癖に気づかずに寸法に違和感を感じている場合があります。そういう時には正しいはき方を伝えるだけで済むこともあります。

Q.ビジネススタイルが多様化しカジュアルウェアの補正も進化している?
A.諦めずに、まず悩みの相談を
職種によってはウールを使ったクラシックなスーツを着用しなくてもいい男性が増えていることから、ストレッチ性やイージーケア性に優れた高機能な合繊のセットアップが目立つようになりました。合繊系でも従来のウールのスーツとお直しの手法は根本的に変わりません。仕上げのアイロンの温度に気を付けるぐらいです。
ストレッチ性の高いパンツだけでなく、ウエストゴム入りやドローコードなどイージーパンツ仕様などカジュアルなパンツも増えています。きれいめのオフィススタイルを演出したい場合には、とれやすいセンタークリースの代わりにステッチを入れることで上品さは保たれます。もちろんアイロンがけの必要もなくなります。レザーウェアを仕事着として利用する人も増えているので丈詰めなどの要望も多いです。
冬にお直しの需要が急増するのがアウターです。特にダウンジャケットに悩みを抱えている人は男女ともたくさんいるはずです。直せるイメージがないため、あきらめてしまっている人も多いかもしれません。
当社では袖詰めだけでなく、ダウン量を減らしサイジングをタイトに変更することも可能です。20年前のアウトドア仕様で、街着としてはオーバースペックだったダウンブランドを持ち込んで、スタイリッシュなサイジングに変更することもあります。

(㊦につづく/繊研新聞本紙20年1月27日付)