日本古来の香辛料として刺身やそばなどで親しまれている本わさび。世界的な和食ブームにより、北米や欧州、中国や東南アジアだけでなく豪州やアフリカ、中東にまで広がり日本の本わさびは、世界のスタンダードな香辛料になった。しかし、本わさびの原料事情はこれまでにないほどタイトな状況となりつつある。
(日本食糧新聞社 髙木義徳)
生産者不足が顕著
本わさびは沢わさびと畑わさびに大別される。沢わさびは渓流や湧き水を利用して栽培され、静岡県や長野県を主たる産地とする。畑わさびはその名の通り、畑で栽培される。一般的には沢わさびは大きな芋が収穫され、その芋は高価だ。料亭などですりおろすタイプはこれが多い。一方で畑わさびは主に茎や葉などが使用され、常温や冷蔵、冷凍などのチューブタイプとなるいわゆる加工わさびの原料となる場合が多い。
現在、特に原料状況が厳しいのが沢わさびだ。これまでも生産者の高齢化により、渓流の栽培地区では生産者不足が顕著になっていた。この状況にさらに加わっているのが、天候不順だ。近年は暖冬や多雨により、地下水や湧き水の温度が上昇。これまで安定した栽培をしていた畑で根腐れが起こるなど、過去の経験が通用しないのが現状だ。日本国内だけでなく世界的にも本わさびの需要が高まっているため、本わさびの需給バランスは過去にないほど乱れている。
メーカーが一役
これまで、本わさびの生産は生産者のノウハウに頼る部分が大きく、一子相伝的につながれてきた。特に種子の採取については、各生産者それぞれの代々の知恵があり門外不出とも言われてきた。生産者の高齢化による後継者不足や天候不順はこれまでの生産方式が限界にきていることを示した。現在は、加工わさびメーカーが生産者と共同で種子や苗開発に取り組み、高温や水温上昇に強い品種改良が行われている。メーカーで天候の変動に強い苗を育成し、生産者に供給する取り組みは双方にメリットを生み出している。
ただし、高温や多雨、水温上昇が今後も長期的に継続すると「畑わさびの栽培は産地を山岳部に移すなどして継続できるが、水が重要な沢わさびは将来的な安定した栽培に不安が残る」(長野県の加工わさびメーカー)など沢わさびの将来への懸念は近年多く聞かれる。国内トップの香辛料メーカー、エスビー食品が静岡でわさび田の復興を行うなどの取り組みは徐々に進んでいるが、世界的な認知が進み共通語となりつつある「WASABI」は、現在の国内の生産状況を改善できなければ、将来的には本わさびの多くは海外産となる日が訪れる可能性が否めない。