《販売最前線》ヴィーナスフォート サポート体制×テナントの積極接客
インバウンド(訪日外国人)で活況を呈す東京・お台場。数ある商業施設の中で最も外国人客でにぎわっているのが、森ビルが運営するヴィーナスフォートだ。訪日外国人のショッピングが売り上げに占める割合は、免税店舗や海外発行カードから推計すると約15~20%。Wi-Fiや多言語表記といった基本的なインフラ整備から一歩踏み込み、テナントの接客を手厚くサポートするインバウンド施策が実を結んでいる。
(藤川友樹)
■アテンダントクルー 不文律を破る
外国人対応に特化したインフォメーションカウンターが強みの一つだ。そこで働くのがアテンダントクルー。森ビルが直接雇用した中国人8人、韓国人2人で構成し、最低3人が館内に常駐している。「自分の国のスタッフに対応してもらえることで、お客の安心感が大きい」とし、主に英語、中国語、韓国語が話せるクルーを配置している。
通常のインフォメーションと大きく異なるのは、クルーがショップ内で通訳や商品説明といった接客をサポートする点だ。ショップ販売員がお客とコミュニケーションを取れない場合に、電話1本でクルーを呼べる仕組みで、早ければ1、2分で店に駆けつける。
SCのスタッフがショップで接客することはまれ。顧客満足を追求し、「店舗の敷居をまたがない」という不文律を破った形だが、テナントにも好評。ショップ販売員はクルーがいるという安心感をもって接客でき、自力で困難な場合にサポートに入ってもらうため、言葉の壁による販売機会ロスを減らせるメリットがある。
■インバウンドミーティング 接客事例を共有
10年にスタートしたインバウンドミーティングもテナントに好評だ。SCとテナントがインバウンドの情報交換をする場として、月1回のペースで開催。主に外国人客の売り上げが高いショップ約15店が参加している。
ミーティングは約1時間で、大きく3部で構成する。まずヴィーナスフォートが情報発信する。購買動向や団体客の来店予定、免税制度といったトピックスを紹介。「各国の文化や性格も伝え、少しでも外国人に親しみを持てるように心掛けている」(西村雄介森ビル営業本部商業施設事業部ヴィーナスフォート運営室プロモーションイベントチームチームリーダー)という。
次にテナントが商況を共有する。来店が多い国や購買動向などの情報を交換。「中国人客は店で最も高価な商品を求める傾向。高くて上質なアイテムをストレートに提案する方が有効だ」といった事例を共有し、各テナントが接客に生かす。
最後は、アテンダントクルーからの報告。各国の祝日カレンダーや、よくある問い合わせなどを紹介する。ワンフレーズのあいさつなど、ちょっとした英会話教室も開かれる。
課題は、参加テナントによってニーズが異なること。「インバウンド対応が進んでいるショップと、これから取り組みたいショップの2種類に分けるなど、ミーティングの在り方を見直している」という。
■婦人靴「ジェリービーンズ」 物怖じしない接客奏功
こうしたヴィーナスフォートの取り組みをうまく活用し、成果を上げているのが婦人靴「ジェリービーンズ」。同ブランドの全国のショップの中でも外国人客が突出して多く、売り上げの約2割を外国人が占めているという。
中野知江店長は「インバウンドミーティングに参加したことで、外国人客に物おじしなくなった」と話す。約2年前に赴任した当初は、外国人客の対応に戸惑ったが、外国人客の一番の不満は積極的に接客されず「無視されたと感じる」ことだとミーティングで知り、学んだ英会話を即座に実践。今は日本人客と同様に、笑顔で話しかけることを心掛けている。団体ツアー客の多い日には最前列にメード・イン・ジャパンのアイテムや人気カラーを並べるなど、ミーティングで得た情報はVMDにも生かしている。
インバウンドへの意識が高まったことで、独自に主要国に対応する靴のサイズ変換表を作成した。ポケットサイズにしてコミュニケーションツールとして携帯。「仮に言葉が通じなくても、サイズ変換表を見せることで試着してもらえる」と効果を上げている。
積極的に接客するには「いざという時はクルーにサポートしてもらえることが大きい」とも話す。ミーティングや接客サポートを通じてクルーと頻繁に顔を合わせることで、クルーもジェリービーンズの商品知識を蓄積。「歩き疲れて、履き心地の良い靴を探している外国人客を店に案内してくれることも多い」そうだ。
香港から家族旅行で同店を訪れた女子高生は「ジェリービーンズの靴はデザインが可愛くて好き。昨年初めて買いに来たが、熱心に接客してくれたから今回の旅行でも訪れた」というなど、リピーターも獲得にもつながっている。
磁力ある国際都市に向けて
穐山壮志森ビル商業施設事業部商業運営部部長の話
森ビルにとってもインバウンドは重要な位置づけです。都市間競争が進むなか、東京が磁力ある国際都市を目指すためには欠かせません。当社の4施設(六本木ヒルズ、表参道ヒルズ、ヴィーナスフォート、ラフォーレ原宿)合計で、物販の免税売上高比率は約10%で推移していますが、もっと高めていく必要があります。 現段階では、インバウンド対応はヴィーナスフォートが一歩リードしていますが、これを他施設にも広げたい。4施設の担当者が集まる合同販促会議でもインバウンドについて議論し、〝オール森ビル〟として横串で取り組める施策を模索しています。それぞれ異なる個性を発揮している商業施設の強みを生かしながら、それを起点に街全体に波及させることも必要です。例えば、六本木には六本木ヒルズだけでなく、商店街や展望台、パブリックアート、三ツ星レストランなどのコンテンツが豊富にあります。ですから、地域内での連携も強めていきます。