チュチュアンナ上田社長 自社の強みを軸にもっと広く深く

2020/09/22 06:30 更新


【パーソン】チュチュアンナ社長 上田崇敦さん 自社の強みを軸にもっと広く深く

 チュチュアンナは、靴下やインナーを主力とするSPA(製造小売業)。新年度が始まった8月1日、創業者である父から社長のバトンを受け取った。ヤングやキャリア世代の女性を主力ターゲットに成長して来たが、今期からは〝チュチュアンナらしさ〟を大事にしつつ、従来よりも幅広い世代を視野に入れた品揃えで大型店の出店を強化する。オムニチャネルの推進とともに、アイテムの垣根を超えた複合提案にも磨きをかけ、お客一人ひとりのニーズを深掘りしていく。

組織で成果を出すことが最大の使命

 ――社長に就任した感想は。

 いよいよこの時が来たと心が引き締まる思いです。社内には第二創業だと話し、少しワクワクしています。コロナ禍の就任ですが、父の上田利昭会長には、「(自身が)創業した当時もオイルショックだった。逆境の中でこそ本物かどうかが問われるから、むしろチャンスだと思えばいい」と励まされました。

 ――8年前に入社して感じたことや苦労したことは。

 父が会社の人たちを自宅に招いた時に、礼儀正しく真面目な人たちという印象がありましたが、実際に入社してからも同じでした。これは父の影響があると思います。私も幼い頃から人としてどうあるべきか、何が正しいのかを教えられ育ちました。

 入社して苦労したのは、3年前に新規でスポーツ事業を立ち上げた時です。ゼロから1を作る作業の難しさを実感しました。物作りや売り方・伝え方、VMD、プロモーションなどのすべてを同時並行で進めてこそ、はじめて売れるということを学びました。

 ――社内改革にも意欲的に取り組んで来た。

 社長に就任するまで企業文化を変えていくことに注力しました。具体的にはサーバントリーダーシップを導入し、逆ピラミッド型の組織を目指したのですが、こうした改革も実りつつある状況です。

 これまでは会長の〝超〟がつくほどのカリスマによって会社が成長して来ましたが、これからは組織で成果を出していくことが、自身の最大の使命だと考えています。幸いこの会社には良い人材がいます。それぞれが実力や長所を発揮する場を整え、それを評価してあげることを引き続き重視します。

 組織経営で社員に期待する姿勢を三つ話しました。自律、学習、信頼です。自律は部門長をはじめとした社員に経営者になったつもりで最大の成果を目指してもらうこと。学習は失敗の取り扱い方で、組織経営の中で創造性を作り出すため、失敗やリスクを恐れずに学習することを指します。信頼はお互いを信じて仕事を任せていくことになります。

 ――前期(20年7月期)を振り返ると。

 新型コロナウイルスの影響が大きく減収はしましたが、コロナで一つだけ好感触だったことがありました。ECが大きく伸びたことです。例えば5~7月は前年の2.7倍、下半期(2~7月)で振り返ると2.3倍になりました。

 インナーの主力商品「運命のブラ」で、社内の声をもとに旧タイプ商品も含めECに集約して提案したところ、ロングテール商品として売れ続けました。おうち時間が増えたことでパジャマやナイトウェアも良く売れました。前期のEC化率は3.4%とまだまだ低いですが、これからオムニチャネルの強化を進めます。

 ――分野別の結果は。

 インナーは善戦しましたが、靴下は苦戦しました。インナーはノンワイヤーブラが通期で前年を上回り、ファーストブラや7月下旬に打ち出したこれまでの得意なテイストとはまた違うセクシーでガーリッシュなテイストの商品が好調です。靴下の方は、コロナの影響もありますが、ここ数年商品を絞ったことで、本来の強みの一つである新鮮さや楽しさを自らセーブしてしまったのが反省点でした。20~21年秋冬物からは、改めて〝面白い〟や〝新しい〟を意識した企画を充実します。

 海外事業は前年比30%近い減収でした。香港は店舗数がゼロになり、海外で現在店舗があるのは中国本土のみです。こちらもコロナの影響はあります。少し落ち着いた後も反動のような消費は少なく、どこかの地域が必ず悪いウィズコロナの状況です。

大型店やオムニチャネルでLTVを実現

 ――自社の強みをどう捉える。

 4月に社長就任が分かってから、マネージャー以上を集めて当社の強みや提供価値について話し合ったのですが、「自分を演出し自信を与えてくれる」という言葉が出て来ました。演出とはカワイイ、楽しい、ファッション性があるということ。当社の靴下の売れ筋はパールとリボンがついたリブソックスで、無地ではありません。

 自信を与えてくれるとはインナーのことで、手に取れる価格で、実は高品質、そしてトレンドがある商品を提案しています。これは他社にはなかなか出来ないことで、はっきりと自社の強みとして企画していこうと話しました。

 ――新年度から3カ年の中期経営計画を策定した。

 当社のミッションは「世界中の女性が明るくおしゃれを楽しむ社会」です。そのために時代とお客様の変化に合わせた事業展開、グローバル成長、営業収益額の継続的な向上を推進します。

 営業戦略では大型店の出店推進やオムニチャネルの強化、MD戦略では自社の強みを生かしつつ、幅広い年齢層のニーズに応えられる品揃えを重視していきます。海外(中国)事業も強化します。自身の夢としては3年後に連結売上高で300億円を目指したいと思っています。

 ――大型店の手応えは。

 大型店「チュチュアンナ・グランデ」は現在6店あり、今期は12店をオープンする予定です。19年11月にイオンモール木更津に開いた約300平方メートルの同店は計画通りに推移しており、20年3月に増床リニューアルしたグランデュオ立川の店も予算を超える売れ行きになっています。

 大型店は一つの手法です。当社はこれからライフタイムバリュー(LTV=顧客生涯価値)を戦略の中心にすえます。これまで約130平方メートルをモデルに国内総店舗数260店まで広げて来ましたが、300平方メートルクラスの店舗モデルを増やしたいと考えています。靴下、インナー、ウェア、スポーツウェア、すべて一つの売り場で提案することをさらに充実します。

売り上げが計画通りに推移している大型店「チュチュアンナ・グランデ」イオンモール木更津店

 ――その背景は。

 これまではヤング中心に提案を絞る形でしたが、創業47年目を迎え、昔の顧客は50、60代になっています。すでにキッズやガールズ、シルバー向けソックスやファーストブラなど、広い世代に対応した商品も展開しています。一方で、様々な競合店がある中で、今までの店舗面積で一番になれるのか、お客様に長く満足してもらえるのか、と考え、結果的に大型店へ踏み出しました。

 ――LTVを実現する他の手段は。

 オムニチャネルの強化です。リアル店舗でもECでもチュチュアンナで購入し続けてもらうことに注力します。現在、自社アプリとECユーザーを統合した会員数はまだ少ないのですが、年間平均客単価が普通のお客様の1.8倍になっています。今期はもっと価値を伝え、「チュチュアンナで買いたい」という会員を増やすことに資金を活用し、人材も登用します。

 クロスセルの強化も進めます。今は靴下だけ、インナーだけを購入するお客様が90%以上です。靴下とインナーを併せて買ってもらうための接客や販促を検証している最中ですが、成功事例も出て来ています。

 ――海外事業で強化することは。

 中国も店舗の大型化、EC強化を進めます。66平方メートルで靴下中心だった店舗モデルを、約130平方メートルでインナーもしっかり売る形へと変えていきます。ECは中国で需要が上がっており、かつてはキャリーを販売していましたが、すでに実店舗と同じ商品、価格、タイミングを実現しています。向こうはECで売れ筋が大量に売れる特徴があるので、今期はその対応も強めます。国内同様、リアルとECの回遊、囲い込み、CRM(顧客管理システム)を重視します。

うえだ・たかあつ 大阪府生まれ。02年神戸大学経済学部卒業。12年にチュチュアンナ入社。16年に取締役、17年に常務取締役、19年に副社長。20年8月社長に就任。41歳。

■チュチュアンナ

 婦人靴下卸売業として73年に創業。79年にチュチュアンナを設立。85年にホームウェア事業開始。94年に国内1号店をオープンして小売事業をスタート。01年にインナー事業を立ち上げ、靴下とインナーを複合展開。靴下とインナー、ホームウェアを複合展開するSPAとして、ビジネスモデルの原型ができる。09年に海外1号店を中国・上海久光百貨でオープン。14年に国内外あわせて店舗数が300店に到達、台湾1号店を開設。15年に400店到達。16年に香港1号店オープン。16年に店舗数が500店になる。19年に女性が気軽にスポーツを楽しめる「チュチュアンナスポーティ」を販売、大型店「チュチュアンナ・グランデ」1号店を開設。20年7月期の連結売上高見通しは219億円で、内訳は国内が196億円、海外(卸売り)が23億円。期末店舗数は国内260、海外240の500店。

《記者メモ》

 会社をどのようにしていきたいのかと抱負を聞いた時、愛読書の副題であるグッド・トゥー・グレイトを引用し、「続く会社、そして社会の役に立つ会社を目指したい」と話した。続けて「従業員が経済的、精神的に良い状態であってこそ、良い商品を生み出せる」「企業は売り上げと同時に利益という結果も出し、税金をしっかり納めるべき」と考えを語った。

 「スポーツ事業立ち上げで、これまで会長が実現してきた新しく生み出すことの難しさを実感した」など、様々な発言から創業者である父に対する尊敬が伝わって来た。入社してからは、組織経営への転換に向けた準備や改革を中心人物となって推進。父が作り上げてきた良さを引き継ぎ、それを時代に柔軟に対応できるものへと発展させようとしている。

 趣味は旅行やグルメ。2児の父でもある。「話すことは得意」と言うように、仕事やそれ以外の話題も興味深く聞かせてもらうインタビューになった。

(小畔能貴)

(繊研新聞本紙20年8月28日付)

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