茨城県水戸市中心街で130年近く続く老舗、竹脇鞄店の後継ぎとなった竹脇士郎社長。コロナ下に家業を継ぐ20年以上前から、新規事業としてアメカジ・和柄のセレクトショップ「チギリ」を併設して営業を続けている。最近では、オリジナルブランドを軸に遠方のイベントに出店することで、ニッチでコアなファンの獲得に力を入れている。かばん店の枠にとらわれず、新たな挑戦を続ける。
(大竹清臣)
顧客接点作りに行く
立ち上げ当初は、和柄ブームに乗ってオリジナルブランドで卸先を拡大した時期もあったが、ブームが去ってからは自店を拠点にECでも販売を続けている。オリジナルブランドの強みは「女性スタッフが描く和柄をベースにした緻密(ちみつ)で繊細なグラフィック。赤ちゃんのような可愛いオリジナルキャラクターによる和柄や、アメカジスタイルのイラストも魅力になっている」(竹脇社長)と強調する。
コロナ下には和柄やスカル柄の生地でオリジナルマスクを作り、EC中心に年間1万7000枚を販売した。その後、キャンプブームに目をつけ、ビンテージの綿製テントをヒントに、男臭いミリタリーテイストのテントをオリジナルで作り販売した。竹脇社長もハーレーダビッドソンを乗りこなすバイカーのため、自身のバイク旅の経験を生かした商品は好評だった。
「コロナ禍収束後はファッション消費も変化し、古着ブームなどで低価格品しか売れない。富裕層も東京へ流出している。水戸市内も飲食店は回復したが、街中で洋服を買い回りする消費者は激減した。当店の場合、バイカーなどコアな客層がSNSやECを見て来店することはある」という。そうした中「待ちの姿勢だけではダメだと思い、自分から集客のある場へ飛び込む」ことにした竹脇社長。24年から月に1度のペースで首都圏でのバイカーイベントに出店し、オリジナル商品を販売している。
春の最盛期は毎週末のように静岡、横浜、群馬、名古屋、岩手とイベント会場を転々とする。今春から本格始動し、年間20回の出店を予定する。1回のイベントでTシャツ300枚を販売するなど店頭1カ月分の売り上げを稼ぐこともあり、イベントでファンになった客が水戸まで来店したり、ECで購入したりと波及効果も大きい。

売れ筋を安定供給
イベント直販で売れ筋をつかみ、定番品の奥行きをつけることができるようになって、安定供給も可能になった。卸先への追加フォローもしやすくなり、好循環を生んでいる。複雑なグラフィックのオリジナルキャラクターをプリントしたTシャツがイベント会場でも差別化につながり、ブランドの認知度が向上した。協力工場との信頼関係も良好で、京都の染工場による絞り染めのカットソートップや製品染めに手作業の汚し加工などのTシャツも人気だ。和柄はインバウンドでも人気で、京都の卸先とは密接に取り組んでいる。
5年、10年先を見据える竹脇社長は、趣味と実益を兼ねた養蜂を始めてはちみつを店頭で販売したり、バイクや自動車のグラフィック・塗装も手掛けたりしている。後輩の専門業者と組み、自身でデザインを担当する。地元の祭りの責任者として、中心街のにぎわい創出にも尽力する。