【連載】これからの幸せのかたち 働き方①

2017/05/02 06:30 更新


未来の自分を描ける 支える環境作り進む

 ファッション業界は今、人材不足に直面している。特に最前線に立つ販売現場は深刻で、「新規出店したくても販売員が集まらない」「仕事は好きだけど長くは続けられない」など、企業側も従業員側も悩みは大きい。改めて、販売職を魅力あるものにするための環境作りが求められている。

 国内単体で約1200の店舗を運営するアダストリアは今春、新人事制度を導入した。その一つとして、販売職は社内の職位〝グレード〟の幅を拡大。従来は原則2までだったが、店長は最大7まで、店舗スタッフも最大4まで可能にした。果たす役割に応じてグレードも給与も上がる仕組みだ。グレード7は、大型ブランドの部長に相当するポジションという。

■長期的なプラン

 従業員へのアンケートの中でも、販売職からは「店長になった後のキャリアが見えない」といった将来への不安が上がっていた。社内で別の職種にシフトする道もあるが、販売職としての長期的なキャリアプランを提示し「行き詰まり感」の壁を取り払うことは、会社にとっても優秀な人材の確保につながるはずだ。

 新事業開発が活発な同社は、マルチブランド化を進め、服、雑貨、カフェ併設など多彩なコンテンツを扱う大型店も出店している。販売現場にも高い能力が求められるため、人事制度もこれに対応できるようにした。グレードの昇格は本人の実績などを参考に、大型店出店といったタイミングでも指名する考え。もしも将来的に館丸ごとのような超大型店ができれば、グレード7の店長が誕生する可能性もある。

 取り組みはまだ緒に就いたばかりだが、周りで昇格する実例が出てくれば現場の士気も上がるだろう。「当社の企業理念や文化を体現してくれる人が長く働き、成長戦略を後押ししてくれる」(田中良興人事総務部長)ことに期待している。

アダストリアは店長や店舗スタッフの社内グレードの幅を広げた 

■信念に基づく

 バッグブランド「フルラ」のフルラ・ジャパンは6年連続で2ケタ成長が続き、16年度の売上高は前年比32%増と大幅に伸びた。その成長の理由の一つが、「売り上げを支えるのは最終的には人の力」という信念に基づいた制度と人材育成だ。

 販売スタッフ16年4月に全社で正社員化を実現。さらに、それまで子供が小学校入学前までだった育児時短制度を小学3年生までと改めた。長期リフレッシュ休暇制度も導入している。これらの制度は、「スタッフが幸せでなかったら、お客様にも幸せを届けられない」と倉田浩美社長自身が、本社のマネジメントスタッフとともに全国85店を半年に1度回って聞いたスタッフの声で作り上げたものだ。大都市の店だけでなく、全店を必ず回る。本音が聞ける懇親会も開いた。できた制度イコール、「声が届いた」というスタッフの喜びでもある。

 制度を作るだけでなく、それらをお題目に終わらせない日常の運営方法が、同社の秀でた特徴といえる。正社員化がスタッフにとって負担ではなくモチベーションアップになるように、トレーニングや社内アワードも実施。長期休暇も、以前は「休めば売り上げが下がってしまうから」と自ら取得しないスタッフもいたが、その期間の要員は本社が確保する。制度やトレーニングを経験したスタッフは、「人間力がアップした気がします」と話す。

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 販売職に限らず、どんなにすてきな商品でも、消費者にとっていくら便利でも、マンパワーだけに依存したビジネスモデルは続かない。人々の仕事に対する価値観も変化する中で、幸せや楽しさ、そして誇りを感じられる働き方とは何なのか、様々なファッション企業が模索を始めている。

(石井久美子、赤間りか)



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