【センケンコミュニティー】ジビエ料理と獣革製品開発の現場
奥能登を拠点に獣害対策の捕獲肉・皮を活用する多彩な活用
ジビエブームだ。狩猟で得た野生鳥獣の食肉はおいしいだけでなく、高たんぱく低カロリーに加え、希少性や珍しさも需要の拡大を後押ししている。かつては狩猟者など現地で細々と消費されるか、都会の高級レストランでしかお目にかかることができなかったが、最近ではジビエ関連の情報もテレビやネットをにぎわしている。
国など行政の支援が強化されたことでジビエ解体処理場が増え、地域の特産品としての発信も多い。また、農林業への獣害対策で廃棄されてきた鹿やイノシシなどの皮を有効活用し、革製品としてマーケットに流通する試みも進んでいる。
そうした中、石川県奥能登を拠点に、狩猟免許を取得し、革製品のブランド開発に始まり、ワークショップ、ジビエ料理の提供まで多彩に活動する「狩女の会」代表の福岡富士子さんにフォーカスした。
◆7都道府県に仲間
福岡さんは石川県内を中心に数度の移住を繰り返し、奥能登の穴水市に住居を構える。獣害問題に関心を持ったのは、13年に同県の白山の麓に移住し、夫婦で自給自足生活に挑んだのがきっかけ。その時に狩猟免許を取得した。わなだけでなく空気銃も使いこなす。
「野生の鳥は弾が当たっても山の中で回収するのが大変だが、ラッキーにも命中した鳥のおいしさが忘れられない」とも。白山では自前のカフェでジビエ料理を提供したり、自作の革製品を販売したりした。ジビエ解体処理場も開設した。17年に狩猟する女性の全国組織「狩女の会」を立ち上げ、全国7都道府県に仲間が増えている。
18年の夏に穴水市に移住。和倉温泉近くの七尾市の山本ジビエ処理施設と提携し、活動拠点として「狩女の里」を開設した。予約制でぼたん鍋などジビエ料理を提供している。
農業被害の大きいイノシシは基本的には箱わなを仕掛けて捕らえる。自ら捕まえたイノシシは山本ジビエ処理施設に持ち込み、皮はぎの手伝いをすることも多い。「ゆくゆくは穴水など奥能登エリアに解体処理場を開設したい」と意気込む。ジビエ利活用アドバイザーとして全国を講演で駆け回る日々の福岡さん。地元ではジビエ料理の移動車販売、ケータリングサービスのほか、飲食店へのジビエ料理のプロデュースもしている。
◆革の風合いと色楽しむ
一番の柱はレザークラフト教室。石川県内の各地域で定期的に教室を開く。福岡さんは自ら捕獲したイノシシの革をマタギプロジェクトでなめしてもらっている。獣脂獣肉除去講座にも参加し、上質な革作りを目指す。
現状での獣害対策の有効活用としては、教室での材料として提供するのが数量的な貢献度が高いという。イノシシの革を10色に染め、革の風合いとともにカラフルな色彩が楽しめる。それだけにとどまらず、タンナーの山口産業が環境に配慮して開発したエコレザーの安心安全な革などもお薦めすることもある。
キーホルダーを作る初心者からハサミホルダーやブックカバー、大型のバッグに挑む人まで様々。「一般消費者は量産品に飽き足らず、自分だけのカスタマイズしたものを手作りしたいとの思いが強いのだろう」とみている。東京で開催されたジビエサミットでは100人を対象にレザークラフト教室をしたことも。
◇
「今まで捨てられてきたモノが、革製品としてようやく認知され、利活用されるまでには時間がかかるのは当然。たまに事業が赤字でも続けるのはなぜかと自問自答することもあるが、これからも一般消費者の認識を変えるために全力を尽くしたい」と一人で何役もこなす福岡さんのパワーに圧倒され続けた取材となった。
獣皮を有効資源化する「マタギプロジェクト」
◆皮の有効活用は0.3%
獣皮を有効資源化し、産地活性につなげる「マタギプロジェクト」は13年に実行委員会を組織した。今では全国300カ所以上から皮が届き、なめした革が活用されている。同プロジェクトは頭数増加に伴い、農林業への被害を深刻化させている鹿やイノシシの野生動物の皮を支援産地で年間3000枚のなめし加工実績がある。だが、全国の獣皮排出数は100万枚超(17年)と見込まれるため、革として有効活用されているのは0.3%に過ぎないのが実態だという。
連携するレザー・サーカス(山口明宏代表)は〝獣革〟を製品化・ブランド化し、産地と都市の消費者をつなぐ役割だ。山口代表は東京・墨田でピッグスキンを主力としたタンナー、山口産業の社長でもある。マタギプロジェクトでは獣害対策から出たイノシシや鹿を良質な革(原料)にするため、山口産業の職人が講師となった獣脂獣肉除去講座(5000円)を定期的に開いている。2カ月前から募集し、毎回、満員状態が続く。
◆世界に通用する基準を
1月25日の講座には猟師をはじめ、革細工職人、大学の研究者など6人が参加した。エプロンと手袋(2重)姿の参加者はメモを取り、写真を撮りながら真剣な眼差しで講師の話に聞き入る。
山口産業のなめす現場で、かまぼこ状の大きな木製の台にイノシシや鹿の皮を乗せ、銑刀(はせん)で余分に残った脂や肉をそぎ取る。最初は危なっかしい手つきだが、こつをつかむと作業も早くなる。手作業以外に電動器具の使い方も指導した。講師が実技を見せながら、皮を剥ぐ時点での注意点や保存のための塩ふり、配送の仕方などもアドバイスする。
山口社長は「単に野生の獣革だけでは差別化にはならなくなってきた。もっとトレーサビリティー(履歴管理)やエシカル(倫理的な)、さらにはアニマルウェルネスな視点から国際社会に通用するようなサステイナブル(持続可能)な基準を確立することが急務だ。そうした革製品であれば、海外市場を含めた新たな需要を創造できるかもしれない」と常に先を見ている。
(繊研新聞本紙年3月7日付)