知られていないけど熱い! こだわりの展示会土産

2022/07/07 06:28 更新


 繊維・ファッション業界の展示会で来場者に配られるお土産。なかなか一般消費者の目には触れないものの、業界内で話題になったり、定番として認知されていたり、ブランドの本質を感じる名品が数多く隠れています。ひと口に来場のお礼とは言えない思いやおすすめポイントを、こだわりのあるブランドの担当者に聞きました。

ロンシャン 日本ならではのおもてなし

 仏バッグブランド「ロンシャン」の日本におけるPRを担当している伊藤友紀子さん。展示会でのお土産はパリにある本社から手配される場合もあるが、毎シーズン本社へプレゼンテーションし、日本オリジナルのお土産を企画して配布している。「ガイドラインに沿うのもいいけれど、ローカルでPRがいる意味を大切にしたい」。そんな思いが、伊藤さんのクリエイティビティーをかき立てている。

ロンシャンマーケティング&コミュニケーション部PRの伊藤友紀子さん

伊藤さん

 今秋冬はテーマのフレンチアルプスから着想を得て、スキー場で雪が降っている姿を和菓子で表現しました。「菓匠・菊家」の「唐衣」という琥珀糖(こはくとう)を、白とブルーで雪のように仕上げています。手作業で作られているので、ルックブックを見せて、できる限り色と形を寄せてもらいました。


 5月末にお渡しするものだったので、ネームはお店の方の提案で〝雪晴れ〟に。きらきらした見た目と特別にハッカを入れてもらったことで、雪らしい爽快感も形にできました。

 私たちは物を売るというより、ロンシャンの世界に浸ってもらいたいと思っています。デザイナーが見ている風景や五感、それを日本で表現にするにあたって何ができるかを常々考えています。PRは物語を伝える仕事。お土産もその一つです。パリのエッセンスを大切にしつつ、日本ならではの提案を今後も手掛けていきたいです。

アナイ 記憶に残ってなくなるもの

 展示会での空間演出にこだわりがある。会場の設営に加え、シーズンごとに漂わせる香りもイメージに合わせて調合する。お土産もその一環で、家に帰っても展示会の続きを楽しめるような余韻を落とし込んでいる。ディレクションの傍ら、お土産も考案する片岡恵美子さんは、「来場する店舗スタッフが現場でどう伝えるか、イメージが膨らむような体験も大切にしている」という。

ファーイーストカンパニーエグゼクティブ・ディレクターの片岡恵美子さん

片岡さん

 シーズンテーマに沿って様々なものを用意してきましたが、今秋冬はアイシングクッキーをセレクトしました。コレクションのインスピレーション源となった映画の主人公が、お菓子屋さんで働いている女性に恋をすることから着想を得ています。主力として打ち出したいツイードのジレと、舞台になったホテルの鍵をイメージしたデザインです。キャッチーなアイシングクッキーとはいえ、日本製で心地良さを大切にする「アナイ」らしく、無添加、無着色で作ってくれるところを探しました。


 ボックスはクラシカルなキャメルで、ふたを開けるとコレクションのキーカラーのピンクが花咲くように現れます。ピンクのアイテムを思い起こさせると同時に、サプライズ感を意識した作りです。工場の方々にも送り、喜んでいただけました。

 今回初めて食品に挑戦しましたが、記憶に残るけどなくなるものは手軽でいいなと感じます。

ミカコ・ナカムラ ブランドの思いとつなげて

 オーダーブランド「ミカコ・ナカムラ」(中村三加子)は、傷んだきものをほどいて別の物に仕立て直すなど、布を大切にしてきた日本の文化に敬意を持ち、〝捨てられない服〟をコンセプトに服作りをしている。展示会のお土産を決める際、その思いを象徴するのは、和洋折衷のお菓子であるカステラだと思いついた。

オールウェイズ社長・デザイナーの中村三加子さん

中村さん

 全国から20種類ほどのカステラを取り寄せ、最も気に入ったのが1681年創業の「松翁軒(しょうおうけん)」(長崎市)の商品でした。持ち帰った人がオフィスや家で気軽に食べやすいように、小さめのサイズを採用しています。


 12年に東京・南青山のサロンをオープンした際には、日本で初めてクッキーを販売したといわれる「泉屋」のクッキーを選びました。歴史があり普遍的で、いつ食べてもおいしい。そんなお店にしていきたいという思いを込めてのセレクトです。

 松翁軒のカステラは最初の展示会以来一度も変えずに採用、泉屋のクッキーはサロンオープン10周年の際に再び配りました。お土産のセレクトもブランドコンセプトと同じくぶれません。服やお店に対する思いをお土産でも表現する。それは同じお菓子を長年作り続ける老舗への尊敬でもあります。派手ではなくベーシックで上質なお土産から、ミカコ・ナカムラらしさを感じてもらいたいです。

ディウカ 陶芸家と協業でミニグッズ

 オリジナルの陶芸ミニグッズのお土産が話題を呼んでいるのは、田中崇順さんがデザインするレディスブランド「ディウカ」だ。茨城県笠間市を拠点に活動する陶芸家の菊池亨さんと協業し、毎シーズンのコレクションのイメージを落とし込んだ小皿、お香立て、ペン立てなどを作っている。同じ形が二つとない個性的な陶器に、服の色をイメージした銀彩を施すなど、2人のセンスが作品に表れている。

ディウカ代表取締役・デザイナーの田中崇順さん

田中さん

 趣味で個店などを回っているうちに菊池さんに出会い、意気投合しました。菊池さんは使う土の重さだけ決めたら、即興で作品を作り始める。自分もデザイン画を描かずに布から服を作っていくことが多いので、アプローチが似ていると思いました。


 毎回約100個ほど用意するのですが、3週間行う展示会が後半に入る頃にはなくなってしまい、追加で菊池さんに作ってもらうこともあります。形や釉薬の色合いが異なる品物を前に、楽しそうに選んでいるお客さんの姿がうれしいです。数年前にパリで展示会を行った際も、現地のバイヤーやメディア関係者から好評でした。

 東京・武蔵小山にあるディウカのブティックでは皿や花器、カップなど菊池さんの作品を販売していますが、展示会の時点で多いときは約3分の2が売れます。お土産からファンになった業界人がその後、購入することも多いです。

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