24年度「第47回繊研賞」 光る創造力、持続可能性、挑む姿勢で貢献

2025/07/03 05:30 更新NEW!


 繊研新聞社が繊維・ファッションとライフスタイル関連ビジネスの発展に寄与した企業・団体、個人に贈る第47回(24年度)「繊研賞」は、西陣織の技術と芸術性をグローバルに発信する細尾、異彩を放つ作家と新しい文化をつくるクリエイティブ集団ヘラルボニー、繊維で循環型事業を構築して30周年を迎えたエコログ・リサイクリング・ネットワーク、繊維産地を活性化するオープンファクトリーのひつじサミット尾州、クリエイティブなデザイナーとして時代をけん引する「オーラリー」、ファッション創業支援施設として20周年の台東デザイナーズビレッジに決まった。特別賞はパルグループホールディングス創業者の井上英隆氏に贈られる。贈呈式は7月2日、東京・紀尾井町のホテルニューオータニで行った。

京都・西陣織の高度な技術と芸術性をグローバルに発信し、価値を高め続ける細尾

 1688年の設立で祖業の織布に加え、後に和装服地卸に進出した。08年以降、海外展開に力を入れ、帯地を使ったインテリア雑貨の販売を開始した。ラグジュアリーブランドの店舗内装に採用されたのをきっかけに150センチ幅のジャカード織機を開発し、従来の32センチ幅では出来なかった新たな用途を相次ぎ開拓した。

家具・インテリア、アパレルなど西陣織の新たな可能性を追求

 特に「グッチ」の限定バッグでは、単なるサプライヤーではなくコラボレーターとしてその名が示された。自社ブランドの販売も強化し、西陣織を使った家具・インテリア商品、アパレルなどを扱う店を京都、東京などに構える。「革新こそが伝統」とのスタンスで挑戦を続ける。

■日本の工芸に無限の可能性

細尾 細尾真孝社長


細尾 細尾真孝社長

 このたびは、栄えある賞にお選びいただき、心より光栄に存じます。西陣織が1200年にわたり育んできた技術、素材、クラフトマンシップに、現代ならではの創造性を織り込み、未来へとつないでいくことが私たちの使命だと感じております。日本の工芸には無限の可能性があります。いま世界が工芸に注目する時代、日本にとって大きなチャンスであり、その価値をさらに高めていきたいと存じます。

異彩を放つ作家とともに新たな文化を創造するヘラルボニー

異彩アートを活用した製品を広げている

 障害のある作家のアートデータを活用したシャツ、スカーフ、バッグ、ネクタイといった衣料品や服飾雑貨、生活雑貨などを幅広く生み出し、〝異彩〟アートの価値を高めてきた。オフィス装飾など企業や自治体との協業も多く、社会に異彩との出会いの場を広げている。これらの活動が評価され、24年のLVMHイノベーションアワードの部門賞ほか数々の賞を受賞している。25年春、岩手・盛岡の川徳1階に「ヘラルボニーイサイパーク」、東京・銀座に「ヘラルボニーラボラトリーギンザ」を開設した。

■異彩の声が世界彩る未来へ

ヘラルボニー 松田崇弥代表取締役Co-CEO、松田文登代表取締役Co-CEO

ヘラルボニー 松田崇弥代表取締役Co-CEO、松田文登代表取締役 Co-CEO

 異彩の作家たちと共に歩んだ軌跡が、銀座、盛岡の店舗、そしてパリで芽吹き始めている矢先、繊研賞受賞の報告を受けました。心より光栄に存じます。

 文化的イノベーションは都市ではなく地方から起きるハズです、マジョリティーではなくマイノリティーが育むハズです。この受賞を励みに、縮こまらずにフルスイングします。異彩の声が世界を彩る未来を目指します。

繊維業界でのサーキュラーエコノミー構築を志し、創立30周年を迎えたエコログ・リサイクリング・ネットワーク(エコログ・リサイクリング・ジャパン)

 コート企画製造卸のワッツ(広島県福山市)が、賛同企業の出資を得て94年に設立。回収衣料を原料にポリエステルのマテリアルリサイクルを行う日本では初めてのリサイクル施設として稼働し、循環型の取り組みを先進的に行ってきた。

回収衣料由来の再生樹脂を成形品や繊維に

 ユニフォームなどの回収衣料のうち、ポリエステル100%の物を粉砕後、熱で溶かして再生樹脂を製造し、成形品に加工する。ボタンなど服飾副資材や、ハンガー、カトラリーなどのほか、長繊維も製造可能で、エコバッグなど実績がある。サステイナブルの機運の高まりで案件も増えている。

■廃棄減へ循環モデル構築

エコログ・リサイクリング・ジャパン 和田顕男社長

エコログ・リサイクリング・ジャパン 和田顕男社長

 栄誉に預かり大変光栄に存じます。94年創業当時より、繊維製品の廃棄を減らすための循環モデル構築を目指し、エコログ・ネットワークメンバーを中心とした関係者のご協力のもとに、マテリアル・リサイクルから再生品へのアップサイクリングを主軸とした事業を展開してまいりました。

 繊維製品の循環経済モデルが浸透するためには今なお課題は多いですが、今回の受賞を糧に、今後もネットワークのコミュニティーを広げ、目標を共有する方々とより多くの共創を実践できるよう励んでまいります。

産地の活性化を目指す産業観光イベント「ひつじサミット尾州」(ひつじサミット尾州実行委員会)

 尾州産地の「ひつじサミット尾州」は、使い手と作り手がつながり、産業観光で産地や地域の活性化を目指している。分業体制でつながる複数社が協力し合うことで産地を守る取り組みは、事業環境の厳しさを増す繊維産業に明るい希望を与えた。一般消費者に工場を開放し、日本製のウールの服地や製品に触れて価値を感じてもらう機会を提供する。

 サミットをきっかけに産地内の連携が深まるだけでなく、他産地にまでネットワークが広がっている。若い世代の就職にもつながっている点は可能性を感じさせる。

若い世代の見学・参加も増え、認知度向上や就職につながっている

■ひつじサミット尾州代表発起人 三星毛糸 岩田真吾社長

 仲間たちと一緒に、会社の枠を超えてゼロから立ち上げた「ひつじサミット尾州」を素晴らしい賞に選んでいただき、ありがとうございます。

 サミットはオープンファクトリーにとどまらず、DX(デジタルトランスフォーメーション)や採用・育成、商品開発まで広がってきました。これからも「工場も、心もひらく」「ゆるくふわっとつながる」というコンセプトの元、挑戦を続けていきます。僕らのチャレンジが、少しでも日本の繊維産地の未来を明るくできたらうれしいです。

 関わってくださった全ての人と羊に、心からの感謝をこめて…メェルシー♪

ひつじサミット尾州の実行委員と有志の参加企業

デザイナーランキング1位に輝くなど時代をリードするブランド「オーラリー」

 さりげなくシンプルでありながら、凛(りん)としたクラス感を併せ持つスタイルが注目され、国内外での評価が高まり続けている。魅力は、柔らかなニュアンスカラーと独特な質感。

「オーラリー」25~26年秋冬コレクション

 デザイナーの岩井良太さんは、糸選びや撚り方、加工など素材作りの全てにこだわり、ブランドアイデンティティーを確立させてきた。パリ・コレクションの評判も良く、繊研新聞社が2月に行ったデザイナーランキングの国内部門で、メンズ、レディスともに1位に輝いた。売り上げも好調で、近年は海外の売り上げが国内を上回るようになった。

■職人の誇り、何よりの喜び

デザイナー 岩井良太氏

岩井良太氏

 賞をいただけたこと光栄に思います。ランキング1位も驚きました。まだそこまで到達できているとは思えませんが、ブランド設立から10年間でやってきたことを評価してもらえたことが純粋にうれしいです。何より、物作りに関わる人たちが誇りに思ってくれることがうれしい。毎シーズン、新たなことに挑戦してもらっているので、評価を一緒に喜びたいです。

 彼らのモチベーションが高まれば、相乗効果で良いコレクションが発表できる。作り手が減るなか、産地の物作りに興味を持ってもらえるとうれしいです。

20周年迎えたファッション創業支援施設 台東デザイナーズビレッジ

地域や行政と協力したイベントで施設内を一般開放

 台東デザイナーズビレッジは昨年、創立から20周年を迎えた。クリエイター育成が目的のインキュベーション施設として、多くの優秀な人材をファッション業界に輩出してきた。卒業生は120組を超え、「リトゥンアフターワーズ」デザイナーの山縣良和氏など現在も活躍する新進クリエイターを育ててきた。同施設は東京都台東区の廃校を活用し、教室だった空間を各自のアトリエや共用スペースに提供する。地域や行政とも連携した物作りをアピールするイベントを開催するなど、新たな街のにぎわい創出に貢献している。

■クリエイターの登竜門の夢を

台東区長 服部征夫氏

台東区長 服部征夫氏

  このたび、栄誉ある繊研賞を賜り、心より感謝申し上げます。台東デザイナーズビレッジは設立21周年を迎え、デザイナー・クリエイターを数多く輩出してまいりました。この受賞は、これまでの入居者の皆様のご活躍と、多くの関係者、地域の皆様の温かいご支援のたまものです。

 これからも、デザイナー・クリエイターの登竜門として夢を実現させる拠点であり続け、台東区の物作り、ひいてはファッション・デザイン業界の発展に貢献できるよう、一層邁進(まいしん)してまいります。

《特別賞》50年でパルグループを大手企業へ成長させた パルグループホールディングス創業者 井上英隆氏

 73年に創業し、24年2月期に売上高1925億円、営業利益186億円を達成、ジャスダック上場時100億円台だった売上高を約20倍に成長させた。独自に編み出したパルマップをもとに、「スリーコインズ」をはじめとする多ブランド戦略を推進した。

雑貨の「スリーコインズ」で安定した売り上げ、強固な収益基盤を構築した

 常に若手を抜擢(ばってき)し、思い切って権限を委譲した。現場の会議にも意欲的に参加、質問に目を光らせて質問やアドバイスをした。社内全体に経営者感覚を根付かせ、組織を強化した。24年3月、88歳で代表取締役会長を退任し、新世代へバトンを託した。

■パルグループホールディングス創業者 井上英隆氏

常に若手を抜擢し、社員の成長とともに会社を強くしてきた

 特別な賞をいただき、非常に光栄です。「どうやったら生き残っていけるのか」を常に考えてきました。紳士服の仕立て屋で創業し、カジュアル、海外ブランドの輸入販売、SPA(製造小売業)化と、蛻変(ぜいへん)を遂げ、もうかる仕組みを探してきました。雑貨「スリーコインズ」は、衣料が良くない時も安定した売り上げが期待できる強固な収益基盤になりました。

 ピンチを乗り越えるたびにパルは力をつけました。若い社員を信じ、仕事を任せたことで大きく成長してくれたからです。パルの経営理念は「社員と株主みんなの幸せのための経営」。これからも成長を続けてくれると確信しています。

(繊研新聞本紙25年7月2日付)

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