「ファッションは人材ありきのビジネス。この機会を大きなチャンスと考えています」。こう話すのは森下光章アンテプリマジャパン社長。この間、相次いで発表された大手アパレルの大規模な店舗閉鎖を含む〝リストラ策〟を受け、「今年は投資をしっかりし、人材を確保したい」と強調する。
ある中堅アパレルの取締役も、「そりゃあ、販売員は引き抜きますよ」と目を光らせる。同社は人材を確保しては出店、を繰り返し、SPA(製造小売業)事業を拡大してきた。ブランドの知名度不足で優秀な販売員が集まりにくかったが、大手アパレルのリストラのうわさを聞きつけ、「有力な販売員を引き抜き、自分たちの成長につなげたい」と鼻息は荒い。
ファッション業界の人材難が続くなか、とりわけ人手不足が顕著なのが販売職。各企業とも時給の引き上げや正社員への登用などで待遇を改善、人材を確保しようと努めるが、課題の解決までには至っていない。
そこに降って湧いたのが大手企業のリストラ。人手不足に悩む企業にとっては、願ってもない〝チャンス〟と期待が膨らむ。
もちろん大手アパレル側にとっても優秀な販売員は大事な人材。TSIホールディングスの齊藤匡司社長は、「過去最大規模のリストラを実施するとはいえ、店舗を閉めるだけでなく、ポテンシャルのあるブランドとの入れ替えを進める。優秀な販売員は配置転換できる仕組みにする。販売員の教育やモチベーションアップ、インセンティブにも力を入れる」と、人材の流出を防ぐための手を打つ。
優秀な人材はどの企業にとっても、のどから手が出るほど欲しい存在。決定的な打開策が見えないなか、当面、争奪戦が続きそうだ。