世界で最も重要なメンズファッションの展示会「ピッティ・イマージネ・ウオモ」が、イタリア・フィレンツェで開かれた。イタリアの貴重な情報を自身のインスタグラムやブログで発信している、ビームスの取締役でエグゼクティブ・クリエイティブディレクターの中村達也氏に、コロナ前後で大きく変わったピッティの話を聞いた。
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カジュアル色強く
96年から参加していますが、当時はドレスクロージング色が非常に濃い見本市でした。しかし、今はカジュアル色が強くなったと思います。その頃の出展者は受注目的でしたが、現在はプレゼンテーションの場になった。以前はフランスやアメリカにもピッティのようなドレスを主軸にした展示会がありましたが、現在、大規模な展示会はここだけ。昨今はインフルエンサーの発信の場でもあることから、世界的にレベルの高いバイヤーやメディア関係者がこの展示会に集まるのだと思います。
毎シーズン訪問するのは、次シーズンの大まかな傾向を見つけやすいから。世界中のファッション業界人が集まることで、商品以外にも彼らの気分のようなものが感じ取れることも理由です。そのまま日本に持ち込めるものと、日本用にアレンジしなければならないものの両面があると思います。ヨーロッパと日本の違いは、階級社会の有無。ヨーロッパは、様々なカテゴリーごとのスタイルに軸がありますが、日本はそれがあまりなく、情報過多なこともあり、なんでもありな状況になっているように感じます。
変革の必要性
コロナ前後のピッティで大きく変わったことは、コロナ後、「ラルディーニ」や「タリアトーレ」など人気のある有力なブランドが出展しなくなったということです。ブランドとしては大きなコストがかかる割にはオーダーにつながらないという実情もあり、ミラノに自社の大きなショールームを作り、そこでプレゼンテーションして商談をした方が費用対効果が大きいと考えているのだと思います。
ピッティとミラノのショールームの違いは、ピッティはそのシーズンの雰囲気を感じ取る場で、ミラノのショールームは実際のオーダーを視野に、じっくりと商品を見たり試着をしたり、スタッフとコミュニケーションを取る場です。
コロナ前のピッティは、人気ブランドのブースは来場者の注目度が高く、いつも人があふれ活気があった。それが少なくなったのは残念。今後、ピッティで有力なブランドがさらに減ってきた場合、展示会には参加すると思いますが、滞在日数は減るでしょうね。
ピッティは何か大きな改革をしないと出展者は減り続けるのではないかと思います。そのような状況になった時は、本来の趣旨とは違うインフルエンサーが集まるファッションの祭典のような場になってしまうのではないかと危惧しています。
(坪内隆夫=ミラノ在住ファッションコーディネーター)
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