チャコット馬場社長 バレエとブランドへの信頼を背景に

2020/05/04 06:29 更新


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【パーソン】チャコット社長 馬場昭典さん バレエとブランドへの信頼を背景に

 オンワードグループにおいてバレエ用品を中心に製造販売するチャコットが今年で70周年を迎えた。バレエ芸術を通じた専門性を生かして、コスメやフィットネスなどのライフスタイル分野へ進出する方針を打ち出した。「人生を、芯から美しく。」をブランドフィロソフィーに位置付けて、事業展開の方向性を「クローズからオープンへ」と舵(かじ)を切る。

事業領域の拡大目指す

 ――70周年を迎えたチャコットの立ち位置は。

 バレエ界、ダンス界において圧倒的な知名度があります。バレエ市場におけるマーケットシェアはウェアを中心とした物販で約50%を占めています。チャコットが創業から地道な活動を通じて築いてきたブランドへの信頼感がベースにあります。また当社の背景にはバレエ芸術から受け取ることができる、圧倒的で、感動的な〝財産〟があります。

 現代の混沌(こんとん)した社会情勢にあって、当社は心が豊かになれる総合芸術をもっと多くの人たちに広げていきたいと考えています。チャコットは70周年を迎えるにあたり、〝未来に向けた起点〟として、クローズからオープンへをテーマにした取り組みを強化していきます。チャコットのルーツやこれまで培ってきた素晴らしさを現代に生かしながら、事業領域の拡大に向けた新戦略に挑んでいきます。また、バレエ界以外の一般の方々が気が付かなったバレエ芸術の価値についても、当社の事業活動を通じて広げることができれば考えています。ブランドの進化を推進する際に大切なのは、社長を筆頭に社員や、それに関わる人たちがチャコットの培ってきた財産や、向かうべき方向を肚(はら)に落とし込み、時代の変化に対応することだと考えます。

 チャコットは会社組織をフラット化した形態に再編します。当社にはジャンルごとにプロフェッショナルの人材がおり、各自が得意とする分野で深耕し、顧客からの信頼を得てきました。これを大事にしながらも、ジャンルごとの特徴を横に通す形を組織のなかに作り上げていきます。各ジャンルで行われてきた〝人生を美しく〟するための活動を、〝チャコットの傘〟の下で多面的に展開します。

ブランドフィロソフィーは「人生を、芯から美しく。」

 ――重視するジャンルでの具体的な施策は。

 バレエ分野についてはマーケットシェアが高く、当社はバレエ界に対して裏切れない責任があると認識しています。ここでは飽くなき価値向上を追求し、プロ層への対応を強化します。また、シェアリングビジネスの推進も行います。レンタル衣装の品揃えを充実するとともに、主役級の出演者や、コンクール出場者に向けたオーダーメイドクオリティーのレンタル衣装を展開します。バレエ文化の底支えに向けた、自主公演開催による鑑賞機会の拡大と、バレエダンサーの踊る場の創出も大事な役割だと考えています。

 一方、コスメとフィットネスのジャンルでチャコットを一般消費者にもっと身近なものにしてもらうための、クローズからオープンの、先駆けとしての役割を発揮します。

 コスメ事業は97年から舞台メイクとして発売し、今ではユーザーの6割以上が舞台ニーズ以外の普段使いとなっています。チャコットのコスメの特徴の一つは、肌に優しい点です。舞台に立つ子供の繊細な肌でも使えるように安心、安全へのこだわりをもって開発しています。汗に強く、崩れにくいことも訴求ポイントです。厳しい舞台環境でも崩れない処方で、プロのアーティストから高い信頼を得ています。これらバレエ界の必然から生まれた当社のコスメは、一般の生活でも役立つものになっており、既に一定の顧客を獲得しています。今秋冬からは更に市場での認知度を高めるために宣伝活動を積極的に行う計画です。これに合わせてブランドイメージを高めるため商品パッケージの刷新も行います。

 ――バレエウェアから提案を広げている。

 フィットネスウェアラインの拡大も重視します。従来の複数ラインを「チャコット・バランス」に再編して、多様なライフスタイルシーンへの浸透を図ります。バレエウェアで蓄積した商品開発の〝財産〟を、消費者の多様なシーンに向けて提案するものです。チャコットで培った素材や技術を活用して、伸縮性が高く可動域が非常に広いレオタード素材の「ロイヤルレギンス」をはじめ、バレエを連想させる透け感のある生地などのデザインディテールを特徴とした商品開発を行います。ここでは他社で採用する開発素材や、売れ筋生地は使いません。あくまでチャコットで採用する素材に限定することで差別化を図ります。このチャコット・バランスについては、着用する人の〝使用価値〟に委ねた商品にしたい。着用するシーンは通勤時から日常のトレーニング、もちろんバレエをする際にも使っていただけます。チャコットの開発技術をふんだんに盛り込んだウェアを着用することで、心と体のバランスを整えるものにします。

人間主義を重視、能力を組織的に

 ――新規顧客を獲得している。

 チャコット・バランスは単独店としては高島屋新宿店、博多阪急をオープンしました。これらの店舗ではチャコットブランド未経験客が70%を占めており、新規顧客の獲得に貢献しています。チャコット直営店では、子供向けの買い物で来店する母親向けにチャコット・バランスが売り上げを伸ばしており、〝一世帯当たりの単価〟が向上しています。また既存の顧客においてもバレエウェアとのコーディネート購入で客単価アップができています。

 ――マネジメントで重視することは。

 現代は〝資本の論理〟だけで成り立つ社会ではなくなっています。人間主義を重視することが不可欠な時代になっているのではないでしょうか。AI(人工知能)ができないことを、人間の力でどう解決するのか。個々人に蓄積された知見やノウハウをどうやって引き出し、企業としての組織体に生かすのか。これら人材の能力を組織的に発揮するための手立てが、経営において重要な課題です。

 そのためには当社の社員に対しても、クローズからオープンへを望んでいます。視野を外に向けて、社会や市場がどう流れているのかを知った上で専門性を発揮することが求められています。

 ITの進展による文明の技術活用は必要不可欠です。しかし、物作りにおいて感性的なニュアンスを伝えるには直接、人に会ってしか伝えることのできないものがあります。また、企業風土を醸成するには、自然発生的に社員同士が意見交換できる場や意識が大切だと考えます。良い意味での〝公私混同〟が大事です。チャコットの社員は、バレエや芸術が好きだから入社しています。ですので、会社に行けば芸術の話ができる仲間がいることを楽しみにしてくれれば良い。そして、会社自体を芸術のコミュニティーの場にできればと考えています。

 ――実店舗の在り方についてどう考える。

 「購買しなくても来てもらえる店」を考えています。これには実店舗で、何を体験できるのかがポイントになります。体験にはその店ならではのオリジン(原点)がなければなりません。

 チャコットの店舗では、バレエシューズを実際に履いて試せるスタジオを設置するすることで特別の体験をしてもらうことができます。コスメショップでも〝試せるショップ〟を意識しました。店内に島什器を設置して、お気に入りのコスメを四方八方から手に取れる、セミセルフ的なショップ形態を作りました。ここでは購買だけでなく、化粧直しに立ち寄って頂いて、チャコットを知ってもらうきっかけになれば良いと考えています。それが一般の人にとってのバレエへの接点となり、私たちのビジネスにつながればなお良いのです。

 また、バレエも時代の流れに乗せることが重要です。実店舗に来ることで高揚感や時代性を感じていただけるようにしたい。時代に合わせたストーリー性も必要です。バレエの高尚さを保ちながら、入店しやすい店作りを目指します。

 一般客との接点拡大に向けた直営店の新陳代謝も進めます。これまではバレエ専門店で目的買いが多いという強みの一方で、一般客との接点が弱いところがあった。今後は店舗の役割の明確化とエリア特性の見極めによる展開を重視します。

 ――新しいチャコットのブランディングに向けて。

 私は企業の売り上げ規模は、社会との接点の大きさに比例すると考えます。芸術界ひいては社会への貢献を念頭に置きながら、人間主義を貫いていくことで、最後に売り上げに反映してくる。逆に短期的な売り上げを作ることを主眼に置いたビジネスは、うまくいかないです。一つひとつの商品がチャコットの思想と哲学を出せるように、バレエやコスメ、フィットネスなど、どのジャンルを切り取っても「人生を、芯から美しく。」を体現するものとしてまとめました。これをお客様の心に染み込ませることができたときに初めてブランディングが出来たと言えます。

ばば・あきのり 1968年、東京都生まれ。90年オンワード樫山入社。04年オンワード樫山 執行役員23区事業本部長、10年取締役常務執行役員を経て、11年代表取締役社長執行役員、その後17年オンワードホールディングス取締役副社長を経て、18年チャコット会長に就任。20年3月より現職。

■チャコット

 1950年に青志社として創業。トウシューズ・バレエシューズの販売を開始する。61年スワンシューズを設立。バレエ用品の総合メーカーとしてレオタード・タイツなど製造開始。64年渋谷・道玄坂に店舗、68年大阪支店を開設。74年チャコットに商号を変更し、78年渋谷・公園通りに本社を移転、本店として開設。以来全国に支店・直営店を開設。90年オンワード樫山(現オンワードホールディングス)のグループ企業となる。92年にチャコット・カルチャースタジオを開設し、ダンス用品の製造販売だけでなくダンス全般の普及に努める事業に着手。14年インティメイツ設立、ランジェリーブランド「シュット!インティメイツ」を展開。19年英国ダンスシューズメーカー、フリード・オブ・ロンドンを子会社化。20年現在、直営店32店、カルチャースタジオ10店。同年創業70周年を迎える。

【記者メモ】

 記者が「チャコットとオンワード樫山のビジネスの共通するところは」と聞くと、馬場社長は「ブランドにオリジン(原点)がなければ競争に巻き込まれる。オリジンと信用があるものは強い」。

 一方〝違い〟については、「チャコットは店頭ではセールを一切やらない。顧客からのブランドへの信用さえあればセールをしなくても売れることをチャコットから教わった」と語る。これはチャコットがバレエ用品で50%のシェアとトウシューズなどの定番品比率が高い故にできること。「『樫山の時にやっとけよ』と言われそうですが、さすがにその勇気はなかった」と率直だ。昨今の厳しい市場にあっても「お客様の心に響いて役に立つ、社会の豊かさに貢献するというポジションを築いていれば、商品の購買やサブスクリプションサービスの利用につながるはず。企業の内的要因に目を向けることが大事」と真摯(しんし)な姿勢で挑む。

 座右の銘は「随所作主、立処皆真」。今、美しい〝チャコット〟の花を咲かせている。

(北川民夫)

(繊研新聞本紙20年3月12日付け)

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