社内〝タレント〟が続々誕生 動画配信でファンを作るコツは?

2021/01/02 06:28 更新


 コロナ下でSNSなどを使い、動画配信などを行う企業が増えています。続けることで露出と知名度が高まり、ファンがついている業界人の方も多いのでは。各社の社内〝タレント〟さんに、どんな狙いで取り組んでいるのかを聞きました。

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生産者ならではの豊富な情報量

佐藤繊維 佐藤正樹社長

 紡績・ニットメーカーの佐藤繊維が、公式チャンネル「satoseni channel~サトウセンイチャンネル~」を開設して半年。同社の10月のEC売上高は、前年比4倍に飛躍した。メインキャストは、佐藤正樹社長。素材を知り尽くしているからこそできるコーディネートの提案が、視聴者の心をつかんでいる。

 配信は週2、3回、オリジナルブランド「M&KYOKO」「FUGAFUGA」が中心。佐藤社長が、直営店のスタッフやブランドのモデルなどと2人で進行する。1本当たり20分前後と見ごたえのある長さだが、小気味良いテンポで飽きさせない。それもそのはず。佐藤社長は長年「ショップチャンネル」に出演し、自社ブランドを販売してきた。

 見どころは、動画の大半を占める商品紹介だ。同社のブランドは、色とりどりの糸を使い、個性的な色柄の服が多い。リバーシブルで着られたり、上下を変えて違うシルエットを楽しめたりと着方の幅も広い。普段無地の服を着る機会の多いお客にも「柄物をどのように楽しく着られるか、着こなしのアイデアをいかにうまく伝えられるか」に重点を置き、素材の特徴に基づいた適切な着方やアイテムの組み合わせを提案。隣では共演者が1枚ずつ着用し、実演する。

佐藤繊維の歴史と物作りの進化を語る動画の配信も始めた

 同時に、原料や糸使い、織り方、編み方といった物作りへのこだわりを余すことなく解説する。ECの販売ページには載りきらない情報量が、高価な同社の商品をECで販売するのに欠かせないという。

 更新はLINEで通知。ブランドの主要客である50~70代が比較的使用しているデジタルツールであることから選んだ。今では、動画を見て直営店を訪れる客も多く、販売員も欠かさずチェックしているという。

パートナーブランドからも好評

インビスタジャパン「コーデュラ」 TK

 インビスタジャパンで高耐久素材「コーデュラ」を担当するTKこと川﨑隆史機能資材・アパレル部部長が10月に始めたのが、日本版公式チャンネルの「コーデュラチューブ」。プロのような動画編集で視聴者を引き付け、採用ブランドのデザイナーらが出演するなどコアな情報を発信する。

 公式インスタグラムが素材ブランドとして異例の7万9000フォロワーを達成、次のマーケティング策としてより深いファン作りが狙えるユーチューブに着目した。川﨑部長が〝ユーチューバーTK〟になりきり、お決まりの「まいど!TKです」で始まるオープニング、せりふ字幕、間をカットしたテンポのいい編集など、人気ユーチューブのフォーマットを踏襲して本格的に作りこむ。

字幕やテンポのいい編集で本格的に作り込む

 コンテンツは、プロの目で素材を解説する①概要編、コーデュラを使った製品のディテールを紹介する②プロダクトレビュー編、パートナーブランドを訪問する③ミート・ザ・マーケット編の三つを軸にし、中でも売りなのが取引先ブランドの関係者が登場する回。これまでに、バッグブランド「アッソブ」を展開するアンバイの冨士松大智社長による新作バッグ紹介、「F/CE.」を展開するオープンユアアイズの山根敏史代表のインタビューなどを配信した。

 1本のコンテンツ作りに撮影は2時間半から長ければ半日がかり。1人で担当する営業との掛け持ちで忙しいが、川﨑部長は「撮影が気持ちの切り替えにもなり、楽しみながらやれている」と話す。登録者数はインスタグラムと比べるとまだまだ少ないが、話題になるような協業の動画を計画するなどコンテンツを充実させて盛り上げていく。客先からは「うちも出たい」と好評で、自前のチャンネルを持たないブランドをサポートするBtoB(企業間取引)ツールとしても期待する。

取引先ブランドを訪問する回も(右端が川﨑部長)

底抜けの明るさとどっきり企画で

TSIグルーヴアンドスポーツ「ジャックバニー」 梅ちゃん

 ゴルフウェアブランド「ジャックバニー」(TSIグルーヴアンドスポーツ)のインスタグラム公式アカウントに実名で「出演」し、ファンから「梅ちゃん」の愛称で親しまれている梅林美希さん。本職はブランドディレクターだが、SNS強化方針の一環でインスタのコンテンツ製作に関わり始め、企画の立案から編集、コメントの投稿、モデルまで大車輪の活躍を見せている。

「『顔出し』することで、お客様にはブランドへの親近感を感じてもらえている」と梅林さん

 梅ちゃん発案の企画は、とにかく客との距離を縮めるものが多い。緊急事態宣言中に敢行した「ポロシャツチャレンジ」キャンペーンでは、ポロシャツのデザインをフォロワーから募集・投稿してもらい、選んだものを実際に商品化した。短期間に約70件の応募があり、一つひとつに梅ちゃんがコメントも返した。

 面白かったのはそれから。採用デザインを発案した客が、商品化されたポロシャツを着てブランドのフォロワー女子でコンペを勝手に企画したのだ。その動きを知った梅林さんは、開催当日にサプライズ参加し、その様子をインスタで生配信した。

 別の企画では、店頭で「ディレクターに接客されませんか?」と募集し、名乗り出た客を梅ちゃんが遠隔接客している様子をライブ配信した。最終的には現地で対面してみせる「どっきり」企画にもなり、会場となった百貨店からは「こういうのはどんどんやって下さい」と歓迎されたという。

 梅ちゃんの取り柄は、ポジティブな性格と底抜けの明るさ、大きな笑い声。彼女と話したり、彼女がそこにいたりするだけで、場がパッと明るくなる。こんな不思議な魅力も相まって、20年初めに1万人程度だったブランド公式インスタのフォロワーは、今は2万8000人に増えた。知名度のアップに伴い、売り上げも過去最高を記録。20年は「爆上げの年」となった。

型にはまらず癒やしと元気届ける

ロゴスコーポレーション どっちゃんときゃなこ

 どっちゃん(入社5年目)ときゃなこ(4年目)は、キャンプ用品「ロゴス」公式チャンネルの動画企画「おそロゴス」に出演する社内ユーチューバー。お揃いのロゴスウェアを着て、自社製品を使ってアウトドアの楽しさを伝えるおそロゴスは19年3月に始まり、日曜夜9時に約15分の動画を上げている。

 驚くのはそのクオリティーだ。バーキューグリルで2キロもあるステーキを作ったり、無人島でイカダ作りやドラム缶風呂に挑戦したりと、その内容はテレビのバラエティー番組顔負け。突き抜けた企画に体当たりで臨む、型にはまらない2人の振る舞いも魅力。説明書を見ないで製品を間違ったまま使って笑いを誘うなど、彼女たちの適度な「ユルさ」も良い。

「若い女性でも簡単にアウトドアを楽しめることを伝えたい」というどっちゃん(左)ときゃなこ

 彼女たちが注目されたのは、緊急事態宣言中にアップした動画から。「おうち時間に少しでもアウトドア気分を届けたい」と、リモートでの収録・編集に臨みながら、スキレット料理対決や自粛中の運動不足を解消するオリジナルのダンス動画、おうちキャンプを楽しむ様子などを流した。すると、コメント欄には「癒やされた」「元気が出た」といった声が相次いだ。

 その結果、チャンネルの登録者数は、この1年で1.3万人増えて現在2万3000人。動画の販促効果は絶大で、全国に47あるショップでは、「おそロゴスで紹介された製品が欲しい」という客が来るようになった。

 顧客の間で2人は既にアイドル化しつつあり、ファンミーティングの開催も求められている。

 当面の目標は、登録者数10万人超え。温めているのは、昨年ハワイのホテルに開設したロゴスのグランピング施設を取材・紹介する企画だ。新型コロナウイルスの終息が待ち遠しい。

社員教育から消費者向けに転換

グラニフ 石川祐さん

 Tシャツ専門店「グラニフ」は公式ユーチューブチャンネル「グラプラチャンネル」の配信を強化している。ライセンス契約による多種多様な商品を紹介し、新規客との接点拡大やファンのコミュニティー形成に貢献するだけでなく、販売員が商品知識を得るための教育ツールとしての効果も表れている。

 グラニフは、オリジナル商品のほか、ライセンス契約によるキャラクター、アート、グラフィックなど様々なTシャツを扱う店。毎週、協業品を販売するなど商品コンテンツが多彩だ。ユーチューブは元々、販売員が協業するコンテンツの知識を学び、接客に役立てるため、19年秋から活用するようになった。一人ひとりの知識量に差が出ないようにするため、店長会で動画を共有し、教育ツールとして役立てるなどしていた。

 20年1月から、消費者向けコンテンツとして方向転換し、配信を強化した。ライセンス商品と連動した内容の動画を、週1回以上は配信するように心掛けている。

グラプラチャンネルは、石川さん(左)を含む3人で運営している

 ユーチューブの収益化の条件とされるチャンネル登録者数1000、総再生時間4000を半年間の目標に定め、無事に達成した。11月末時点のチャンネル登録者数は約2150、総再生回数は約20万となっている。

 グラプラチャンネルは、「今までグラニフを知らなかった新しいお客様との接点であると同時に、コメント投稿が活発でコミュニティー形成につながっている。店舗の接客力向上にもなった。ユーチューブ単独での収益化というよりも、実店舗やECの売り上げに貢献する役割を担いたい」(石川祐ライセンスディビジョンマネジャー)という。

(繊研新聞本紙20年12月4日付)

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