■あらゆる接点をデータで可視化
商品と買い場の飽和がさらに進む中で、「消費者の真のニーズ」をデータで日々とらえ直すことが急務になった。客の閲覧・行動・購買データが日々取得できるECに加え、実店舗、販売スタッフといったアナログな顧客接点でも客のデータを抽出・活用することに挑む先行企業が増えている。
あらゆる顧客接点で「同一サービスの提供」を実現し、消費者と良好なコミュニケーションを深める段階に来た。
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アナログを可視化
ECの強みは、「データを基にしたPDCA(計画・実行・検証・修正)サイクル」。時間単位で客の行動・購買データが取得でき、分析が可能なため、消費者の要望について、仮説を立てて試し、その検証ができる。
一方、実店舗などのアナログ販路では結果データは残るが、買わない客の要望や不満がつかめず、検証・改善への反映も遅い。消費者が求める課題解決のスピードを受け止められず、客離れが続く。自社の資産価値を引き出すために、ECだけでなく実店舗でもデータを取り、顧客の要望を可視化し、「同一サービスの提供」を実現することが重要になってきた。
各顧客接点の数値を統合的に見るためには、自社の情報・データ基幹システムを改修・刷新する必要があるため、大きな投資が必要だ。
一方、少ない投資でアナログ接点の価値を可視化できつつある。その代表が店舗スタッフコーディネート画像経由売り上げ。ファッション感度の高い店員がECサイトやSNSなどに掲載するコーディネート画像の集客効果は大きく、EC購買への貢献も可視化でき、個々のスタッフのモチベーションを高められる。
実店舗では客の興味・関心・行動の可視化を目的に、最新の人・商品検知のITカメラを導入することが検討され始めた。〝次世代型ストア〟として注目されるが、既存店舗への導入はしばらく先だ。一方、スマートフォン向けアプリケーションがAR(拡張現実)の機能まで実装しつつあり、実店舗での活用などが期待される。
「店舗を訪れ商品を見て購入するという、〝面倒で手間のかかる行動〟自体がますます減退」して利便性と簡便さを求める傾向が強まるとともに、「直営ECには作り手の思い、人の共感がないと、大手モールにかなわない」とECでの差別化も必須となってきた。
自社のアナログ力をデジタルの力で変革し、客が不便や面倒と感じることを取り除き、SNS、店舗スタッフ、アプリといった自社商品の接点を〝経由〟した売り上げや貢献の可視化が課題解決の大きな一歩になっている。
大きい成長の余地
最後に、本社ECアンケート調査を基に、ファッション関連の各業種ごとに16年度と17年度のEC売り上げ伸び率、EC比率をまとめた。
EC売り上げの伸び率は17年度も全業種で2ケタ増を継続しながらも、伸び幅は10~20%台と安定化しつつある。一方、EC比率をみると、業種によってはオムニチャネル化が進んでいないことが分かる。多くの業種が10%以下にとどまっており、まだまだECを軸にした自社資産の活用・活性化の余地が大きく残っている。
オムニチャネルの実行ステージは「EC強化」から「客が喜ぶためのサービスを全販路で行う」ことへ――自社の顧客との各サービス接点を大きく改善し、客との接触時間を増やし、同一サービスを行い、収益を高めていくためには、早期に自社のヒト・モノ・情報サービスを改善することが待ったなしだ。
(中村維、疋田優、藤川友樹/繊研新聞本紙 2018年11月7日付)