〝コロナ禍〟一色の20年で、勢いが目立ったのがDtoC(メーカー直販)。米国発のビジネス形態で、メーカーが代理店や小売店を介さず商品を直接消費者に販売する仕組みだ。日本のファッション業界でも、小規模事業者から中小・大手アパレル、工場、モールなど様々な企業がDtoCブランドを立ち上げた。
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大手、国内工場も参入
米国で登場したのは約10年前。眼鏡の「ワービー・パーカー」やメンズカジュアルの「ボノボス」、スニーカーの「オールバーズ」は日本でもよく知られる。あらゆる分野を網羅し、マットレスの「キャスパー」など上場する企業も出た。ブランドは自身の世界をSNSなどで消費者に広く訴える。消費者の一部はECなどで購入するファンとなり、彼らとのコミュニケーションを通じてサービスや製品を改善。オンライン上でのやり取りで得たデータで、改善のループを速め、さらにファンを増やすという成長イメージだ。
日本でも、オーダースーツの「ファブリックトウキョウ」やレディスの「フィフス」、時計「ノット」、ルームウェア「フートーキョー」、小柄な女性向け「コヒナ」などのスタートアップが早くから参入し、完全食の「ベースフード」や男性化粧品の「バルクオム」など幅広い分野で広がった。多くが既存流通にはない製品だ。初期コストが低いのも参入増の背景にある。
今年はストライプインターナショナルやジャパンイマジネーション、ロコンドなどの大手や、国内工場などがブランド開発に乗り出した。春先には丸井がDtoCブランドへ投・融資する新会社を設立し、今秋にはゾゾが「ユアブランドプロジェクト」で20ブランド以上をリリースした。11月には三井物産がバルクオムに出資するなど話題に事欠かない。
メリットは裏返しにも
DtoCは21年も引き続きキーワードとなりそうだ。新しいビジネスモデルを好機と捉えブランド開発が増えるからだ。もっとも、小規模事業者の経営は楽ではない。コストを吸収する売り上げは取れても、資本は積み上がるどころか削られ、次の資金調達先探しで頭がいっぱいというところも多い。中間流通の省略や広告費ゼロなどの表面的なメリットは、裏を返せば全て自分たちでやらなければならないということ。多くは外部パートナーへの依存もあるから低コストとは言えない。
一方、既存ブランドを有する大手は、DtoC事業の意味合いを問われる。そもそも〝スモールマス〟がターゲットのビジネスモデルだから、天井は限られる。事業を進める中で、「何のために取り組むのか」の明快な答えが求められる1年になりそう。エッセンスを既存ブランドに取り込むことで再成長を狙おうというケースも出てきそうだ。
(繊研新聞本紙20年12月17日付)