《販売最前線》モンベル 会員組織で顧客と関係作り

2018/09/22 06:29 更新


《販売最前線》モンベル 会員組織で顧客と関係作り 社員の「アイデアシート」で商品開発

 11日は「山の日」。アウトドア用品メーカーのモンベル(大阪市)は「アウトドアに関するワンストップ・ショッピング」をテーマに、直営店での接客に力を入れている。同社の強みは顧客との関係性だ。社員は商品知識はもちろん、常に近隣の山や海といったフィールドの状況を把握しており、顧客の店舗に対する安心感、信用につなげている。販売員、顧客とも本格的な登山愛好家が少なくない。独自の会員組織「モンベルクラブ」を通じて強固な顧客基盤を築く。

(小田茂)

 モンベルの従業員教育は「特に変わったものはない」(工藤裕章専務)という。社員には、やはりアウトドアでの遊びが好きな人が集まるため、「好きこそ物の上手なれではないが、自主的に学ぶ人」が多い。社員研修や販売マニュアルもあるが、ごく基本的なことを確認するだけで、「逆にマニュアルに頼りすぎず、顧客の要望に合った内容を提案することが大切」と指摘する。店舗にはよく「次に○○山に行くのだが、どういう装備が必要か」という顧客が来る。その時に場所や天候、顧客のレベルに合った商品を提案することが必要になる。

体験イベントで購入も

 アウトドアウェアに関しても「服も自然を楽しむためのギア」という捉え方が強い。色柄やデザインもあるが、それ以上に目的を考慮して、下着からアウター、帽子、靴下など顧客のニーズに合った商品を薦める。社員には実際のフィールドでウェアを試している人も多く、説得力があり、体験イベントから購入につながるケースも少なくないという。直営店では「バーゲンやポイントアップ・セールなどを一切しない」のも特徴。在庫処分はアウトレット店やイベント時の催事販売に限っている。

本社ビル向かいの直営店「本社アネックス店」に訪れたカップルは「街でも使える軽いリュックを探しに来た」という

 社員には大学の登山部やサイクリング部といった運動部出身者が多く、毎年50~60人を採用している。店舗でアルバイトしていて、そのまま就職する人も20~30人いるという。中には、アウトドアが好きで他社のサラリーマンを辞めて入る中途入社組もいる。採用は基本的に大阪本社採用で、「そこから世界のどこに行くかわからない」。スイスと米国に各2店あり、日本には全国約120店がある。年々、従業員数は増加し、現在1000人近くになっている。

 入社後は基本マナーをはじめ店舗運営方法、レジ打ちや陳列作業など社内で基礎的な研修の後は10日ほどで店舗に配属される。就職内定中から店舗でのインターンを体験している人も多く、現場教育の中で慣れていくことが多いという。その後は「3年目研修」「店長研修」があり、マネジメント知識や管理業務などを追加教育している。店長は長くて7~8年、通常3~5年で交代し、「次にベストな人材を登用する」。店舗間の異動は全国規模で実施しており、「へき地の店舗を」といった本人の希望も考慮する。社員には年2回、「自己申告書」を書いてもらい、本人の働いている状況や異動希望、関心のある分野などを調査している。

無料の店内セミナーは全国の直営店で頻繁に開催している

休職でK2登山挑戦

 「実際のアウトドアでの体験」を重視しているため、社員が休職することにも寛容な社風がある。特に休暇制度は設けていないが、数カ月から長くは1年休職して、世界を回ったり、今も「世界で最も難しいといわれているK2」に挑戦している社員がいる。以前には南極観測隊に同行した社員もいた。こうした「経験や知識が商品企画に役立つことも多い」と指摘する。

 商品開発に関して、全社的な知恵を集めるのも同社の特徴。年2回の「アイデアシート」を全社員から募り、実際の体験や店頭での要望を取り入れている。シートは2000枚近く集まることもあり、これを企画会議で検討し、職人のような企画チームが具現化する。

 今後の販売姿勢も「これまでの方向性は変わらず、ベースは顧客の信頼が得られる商品を親切に提供していくこと」とする。スポーツサイクリングを主体とした自転車部門を近年強化しているので、現状5店ほどしかない自転車扱い店舗は拡大する計画。これに伴って整備技術を持った人材育成は課題としている。

◆有料の会員組織「モンベルクラブ」 年々増加、高い契約更新率

「モンベルクラブ」の会員数推移
「モンベルクラブ」の年齢別構成比

 モンベルの店舗を支える基盤としての強みとなっているのが、有料の会員組織、モンベルクラブだ。毎年、会員数を伸ばし、今年は86万人に達した。会員は購入ポイントのほか、全国各地の提携施設で特典が受けられる。年間1500円の会費がかかるが、販売ポイントが付与され、カタログや情報誌が送られ、体験イベント「アウトドア・チャレンジ」などにも参加できる。

会員向け体験イベント「アウトドア・チャレンジ」は店舗スタッフや現地ガイドがフィールドを案内する

 日本最大発行部数のアウトドア雑誌となっている季刊情報誌「アウトワード」は読み応えがあり、環境保護を支援するファンド基金もある。「環境問題への関心が高い顧客が多い」ため、契約更新率は8割近くある。会員の男女別比率は7対3ほどで、年齢別構成は円グラフの通り、40、50代が多い。会員の平均年齢も顧客年代と共に上がっており、昨年は0.2歳上昇の50.4歳となった。店舗によって異なるが、会員販売比率は30~40%を占める。アウトドア・チャレンジは全国で実施しており、トレッキングやカヤック、ラフティング、シャワークライミングなどプログラムが増え、年間では約6万人が参加している。1985年から開始した提携優待施設「フレンドショップ」は全国約1800カ所ある。地域ぐるみで会員のアウトドアライフをサポートする「フレンドエリア」は06年から開始して86カ所となっている。09年から地方自治体と協業した環境スポーツイベント「シートゥーサミット」を開始しており、人力だけで海から里、山頂を目指す競技は10年目を迎えた。

近年人気のウォータースポーツ「スタンドアップパドルボード」
(繊研新聞本紙8月10日付けから)


この記事に関連する記事

このカテゴリーでよく読まれている記事