三越伊勢丹の「アイムグリーン」 直営の常設買い取りカウンターを開設、「売り放し」から販売後もサポート

2022/02/14 06:27 更新


 三越伊勢丹は21年10月から、不用品の買い取りサービス「アイムグリーン」を伊勢丹新宿本店で始めた。客が持ち込んだ衣料品やハンドバッグ、時計、宝飾品などを買い取る、または無料で引き取って、提携先を通じて販売やリサイクルする。百貨店が直営で常設の買い取り、引き取りサービスを実施するのは初めて。販売後のサポートを百貨店自ら運営することで、新たな購買体験の創出を目指す。

(松浦治)

販売後の関係性を構築

 「これまでの百貨店は商品を購入してもらったら終わりで、売ることしか考えてなかった」(大塚信二デジタル事業運営部計画推進マネージャー)という“売り放し”の反省から、販売後も顧客に寄り添う仕組みを事業化した。使わなくなったものを新たに活用できる場所に送り出すことで、購入後についても百貨店が関わって新たな価値を生み出すのが狙いだ。必ずしも効率的に利益を稼ぐ事業モデルでないが、顧客の困り事、関心事に寄り添うことで顧客エンゲージメント(関係性)を高める。

 伊勢丹新宿本店7階に設けた買い取り相談窓口カウンターでは、客が持ち込んだ商品を三越伊勢丹が査定し、買い取り額を提示する。その金額に客が同意したら買い取るか無料で引き取る。買い取った商品は専門業者が販売し、引き取った衣料品は日本環境設計がリサイクルする。

購入、回収の循環サイクル

 客は来店や宅配を選ぶことができ、来店の場合は買い物のついでに気軽に利用でき、即時査定でその場で現金を受け取ることができる。申し込みはホームページからの完全予約制で、三つある個室で店頭での販売経験のある社員が接客する。客の個人情報は三越伊勢丹だけが管理する。来店はジュエリー、時計、ハンドバッグなど10~15点の持ち込みが多く、配送は自宅にあるものを処分する動機から衣料品や靴、ハンドバッグなど段ボール箱2~3個の利用が多い。

伊勢丹新宿本店7階に開設した窓口には三つの個室を備える

 事業化の背景にあるのは循環型社会、環境問題への意識の高まりだ。20年12月に実施した三越伊勢丹のウェブ、アプリの会員計1万7000人を対象にしたアンケートでは、衣料品回収や持続可能な資源利用への関心、期待が上位にあった。不用品の買い取りサービスについても「ブランド品をどこよりも高く売りたいのでなく、家にあるものを整理したい要望がほとんどだった」(大塚マネージャー)という。

3割がリピーター

 アイムグリーンは、三越日本橋本店で20年10月から約1年間、買い取りサービスを仮説、検証してきた。店頭のほか、宅配や外商顧客向けの出張でも相談を受け付け、約2000件の買い取り実績があった。40~60代の顧客が中心で、買い取り金額は計画比30%増だった。1回当たりの平均買い取り額は、店頭が15万円でシェアが6割、宅配が5万円で1割、出張が100万円で3割に達した。利用客の3割がリピーターとなり、買い取りが次の購買行動に結び付いている。

販売経験がある社員が接客し、最適な活用方法を提案

1次流通の活性化につなげる

 中古品を売ったり買ったりする2次流通は20年に2兆4000億円超の規模になった。フリマアプリをはじめとしたネット販売のCtoC(消費者間取引)は急拡大しており、中古市場の半分を占める。三越伊勢丹がリユース市場にあえて参入したのは、1次流通で培ってきた顧客との信用と信頼の関係性を生かせると判断したからだ。新宿と日本橋の専任担当者は計10人で、販売経験が豊富だ。ネットにない対面接客で安心して相談できる体制を整える。

 もう一つの狙いは、新品購入から利用、不用品、買い取りの循環サイクルに三越伊勢丹が直接関わることで、再び1次時流通を活性化させることにある。伊勢丹新宿本店は毎シーズン、新作を買って自宅のクローゼットがいっぱいで、トランクルームを借りている顧客が少なくない。品物の一つ一つに愛着があり、処分に迷っている声を売り場で聞くことが多い。不要になったものを整理したいが、「どこを利用したら良いか分からない」「思い出のある愛用品だっただけに捨てたくない」という顧客の悩みを解決する。

 同時に「新品購入への仕掛け」(大塚マネージャー)として次の購買につなげる手段にする。三越日本橋本店での検証では、来店して買い取りした利用客の8割が、そのまま店内で新たに商品を購入していた。伊勢丹新宿本店でも、買い取りを目的として来店してもらって、また新しい商品を買ってもらう購入・回収の循環サイクルを定着させる。さらに顧客の購入した商品の情報を基に、時期を見て買い取りの提案をすることも検討している。

 今後は買い取り・引き取りのアイテムを拡大する。さらに買い取りできずに引き取った品物を専門学校など外部団体と協業して、リメイク、アップサイクルする取り組みにも着手する。単に廃棄するのでなく、アイムグリーンを通じて新しい価値を創出する。

(繊研新聞本紙21年10月29日付)

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