古着屋を物色していると、服のブランドに交じって企業や飲食店が作ったとおぼしきTシャツが見つかる。ピザのスライスとか引っ越し用のトラックのイラストが描かれ、店や会社の名前、電話番号などが記されている。
商売の宣伝用や店員のユニフォームとして使われたものなので、ロゴは洗練されておらず、イラストもはっきり言って上手ではない。コストを抑えるため、ポリエステル・綿混の安いボディーに単色の顔料でプリントがしてある。
名刺代わりに作ったものだから一般に流通することはなかっただろう。ファッションとしてデザインされたものでもないのでどこか間の抜けた印象を与えるが、そこに味わいを感じる。高値が付くビンテージのジーンズやシャツなどと違って値段も安いので、見かけるとつい買ってしまう。
地域特有の暮らしや文化を背景に、そこで暮らす普通の人々が日常的に使う道具や住まいに施した絵や装飾が、時間の経過とともに芸術として評価されるようになったものをフォークアートと言う。
海外セレブが着用した画像が拡散され、古いロックTシャツに高値が付くことも珍しくない時代だ。アメリカの片田舎にある小さな会社や店が作ったTシャツが、時間の経過とともに、思いがけず注目されて、人気を集めるようなことだってあり得る。