本日、繊維・ファッションビジネス業界の一員となった皆さん、おめでとうございます。心から歓迎の言葉を贈ります。そして、学生生活の大半をコロナ下で過ごし、自立への道をしっかりと選んだ皆さんに敬意を表します。
皆さんがこの業界を選んだ理由は何だったでしょうか? ファッションや物作りが好きで、その喜びをたくさんの人々と分かち合いたいという思いは共通するでしょう。世界的に見て、繊維・ファッションビジネスが成長産業ということに将来性を感じられた方もいるはずです。
これらの特徴は、繊維・ファッションビジネス業界を形作る要素ですが、全てではありません。完成形とも言えません。むしろ、これから皆さんが肉付けし、より豊かなものになっていくとお伝えしたいと思います。
世界がコロナ禍に見舞われて丸2年以上になりますが、本当の終息がいつ来るのかわからないままです。人々の行動が制限され、閉塞感に覆われているうちに、超大国による侵攻を目の当たりにする事態に至りました。緊張は今も続いています。社会は変化するものですが、今の姿を5年前に想像していた人はほとんどいないでしょう。
軍事攻撃のニュースが駆け抜けてすぐの2月28日、パリ・ファッションウィークを主催する仏オートクチュール&モード連盟(FHCM)のラルフ・トレダノ会長は、声明を出しました。「クリエイションはどんな状況に置かれても自由に基づくもの。モードの役割は私たちの社会において個人の、または集団の解放に寄与する」と。
このメッセージは、自由と創造に基づく繊維・ファッションビジネス業界の役割を象徴しています。単なるぜいたく品ではなく、一人ひとりの生き方に密着した物作りを追求する立場からの強く、誇り高き言葉です。
世界中の人々の身を一番近くで守るのが衣服です。それは生活必需品であるだけでなく、心を人間らしく保つために欠かせません。身に着ける物の選択肢が広く多様であること、同時に、そこから自分にぴったりの物を選ぶ機会があることは人間らしい暮らしの大事な一部です。声高に言うようなことではありませんでしたが、こうした何気ない暮らしの豊かさに気づかされ、ずっと大切にしていきたいとの思いが世界中で共有されているのではないでしょうか。
自由と創造を担保するためにも、平和であることが重要です。これが、繊維・ファッションビジネスは平和産業であると主張している根拠でもあります。
皆さんは、この業界の一員となりました。皆さんが自由な発想や新たな技術で面白く仕事をすることによって、この世界はより彩り豊かで楽しいものになっていきます。繊研新聞社も微力ながら75年近く、この業界の発展のサポートに努めてきました。まだまだ十分ではありませんが、皆さんと一緒に成長していきたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。
繊研新聞社