車いす利用者向けジーンズ 丸安毛糸らが共同開発

2019/03/26 06:30 更新


 車いす生活を送る人もおしゃれを諦めない環境を――丸安毛糸(東京、岡崎博之社長)は、丸和繊維工業、山形バリアフリー観光ツアーセンター(山形県南陽市、加藤健一代表理事)と共同で、車いす利用者に向けたジーンズ「フライング・ジーンズ」を開発した。丸和繊維工業の「動体裁断」技術を取り入れ、座った状態ではきやすく、きれいなシルエットを実現した。5月から販売する。

(橋口侑佳)

 構想から約1年。きっかけはセミナーの合宿で、車いすで生活する加藤代表理事が岡崎社長と知り合い、「車いすでもはきやすく、格好いいジーンズを作りたい」と話したこと。車いす利用者は、着脱のしにくさや血流の滞りを恐れ、柔らかくて伸びるスウェットやジャージーパンツで過ごす人が多いという。

 開発にあたり、「車いす利用者の日常生活をまず知ってもらう」(加藤代表理事)ことから始めた。車いす利用者がはきやすく心地よいパンツは、伸縮性だけでは不十分という。皮膚の研究・分析から、運動時の動きや姿勢に合わせて生地を裁断する丸和繊維工業の動体裁断を活用し、立体的なパターンを設計した。

 これにより、座ってもウエストラインが下がらず、膝を曲げた時の突っ張る不快感がなくなった。裾が上がらず、不自然なしわも寄らないため、見た目も良い。尻を上げてズボンを引っ張り上げる時に引っかからず、脱ぎ着しやすくなった。

「動体裁断」技術で、座った時にフィットする立体的なパターンに

 加藤代表理事は、着脱や排泄(はいせつ)、介助時など様々なシーンから課題を伝え、改善を重ねた。股上は深く、ファスナーをぎりぎりまで長くすることで、排泄時の着脱を楽にした。肌面の縫いしろは上から再度縫製することで、アタリの圧が長時間かかることによる血流の滞りを防ぐ。

 ベルトループは後ろの三つを大きく頑丈にし、介助者が車に移乗させる時などに手が掛けられる。ベルトは、登山用にも使われるマグネット式を採用し、ワンタッチで付け外しが可能。膝上には、スマートフォンを下から差し込めるポケットを取り付けた。

 生地は軽く、柔らかいはき心地でありながら、介助する際は体を持ち上げる力がしっかり伝わるよう、何種類ものストレッチ生地を試した。

膝上に下から差し込むタイプのポケットを配し、スマートフォンなどが出し入れしやすい

 23日には東京・渋谷でトークショーを行った。岡崎社長、加藤代表理事のほか、日本初のプロパラアスリートの廣道純さん、18年の欧州最大のファッションコンペ「ITS」ファイナリストの津野青嵐さん、ファッションクリエイターの軍地彩弓さんが登壇した。

 軍地さんは、「健常者にもはきやすくてシルエットが良く、座って仕事をする〝チェアワーカー〟にも向く」と語り、津野さんはデザインの面白さを指摘するなど、健常者も巻き込んだ従来とは異なるビジネスモデルの可能性が示された。

 価格は2万8000円の予定。クラウドファンディングも視野に、岡崎社長は「共感の輪を広げていきたい」と話す。

「フライング・ジーンズ」を着用した加藤代表理事(右から二番目)や岡崎社長(右)ら


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