”セクシー”なベルリンが還ってきた!(吉田恵子)

2014/10/15 11:55 更新


「プアだけどセクシー」(Wowereit現ベルリン市長の名言、セクシー≒クール)なベルリンで、Alternative Fashion Week (BAFW)なるものが10月初めに催され、インデペンデントな15のブランドによる多様なコレクションが披露された。

 


会場は元変電所だったE-Werk

 

ベルリンは経済大国ドイツの首都でありながら、市民の平均所得は国内他都市と比べると低めで、 際立った産業がなく、失業率も高い。その一方で、アートや音楽においては国際的に高い評価を得ている。

デザインひいてはファッションにおいても、よい大学が揃っていた上、東西ドイツ統一後は特にその自由なムードの中、旧東地区の家賃・生活費が安かったことも手伝い、若くクリエイティブな人材が各地から集まるようになる。

そして彼らのオルタナティブでセクシー(ドイツ語ではクールという意味に近い)な作品が国内外の感度の高い人々の心を惹き付けていった。「ベルリンは、自由な精神とオルタナティブな考え方を育む街との評判がある。それがベルリンを先駆的で最先端を行くデザインの中心地にした」(BAFW発起人、Adam Roseさん)。

 


Andrey Bartenev: モスクワ出身で国際的に活動するアーティストによるパーフォーマンス。
幾何学模様の風船からなる奇妙でかわいい造形物が 会場を踊り回る


Alles: ベルリンのテクノシーンから生まれた、ナイトライフのためのウェア

 

この流れと並行し、カジュアルファッション見本市ブレッド&バターやメルセデス・ベンツFWが牽引役となり各種ファッションイベントがベルリンで定着、年々大規模化・商業化が進んでいった。

出展料が割安でインデペンデントなデザイナーが展示できる場はそれでも常にどこかにあったが、その存在感が希薄化している感は否めない。ベルリンがつまらなくなった、という声も聞かれるようになった。そんな中で、「オルタナティブなコンセプトを見せるプラットフォーム」(Adam Roseさん)という新しいくくりのイベント、BAFWが立ち上げられた。

 


Tata Christiane:ベルリンに拠点をおく。老若男女(そしてトランスベスタイト)のために悪趣味と優雅の境界にある美を創造

 

Cyberesque: オランダ出身のベルリンのデザイナー。アンダーグラウンド・パーティー向けのウェア(ベルリン)


BAFWでは、ファッションはエクスクルーシブなものであってならない、とされ、各種社会グループ(例:性、性的志向、人種)や分野(例:アートvsファッション)の境界を超え「インクルージョン」するファッションに焦点があてられた。ベルリンのライフスタイル・文化・志向を特徴づけるストリートファッション、サブカルチャー、クラブミュージック、マルチカルチャー、実験的性格が濃いブランドが集められた。

富裕層やセレブといった中心から大衆へ、ではなく、周縁または多様性から出発するアプローチ、といったらよいだろうか。ターゲットもファッション関係者やセレブに限定せず、コレクションを一般公開のマーケットで展示・販売。ショーもチケット(15ユーロ〜)を買えば誰でも観ることができる、という、インクルーシブな参加型だった。

来場者の多くはパンクやゴシック系スタイル。会場ではドイツ語と同じくらい英・米語が聞こえ、国を超えて注目されているらしいことがわかる。またBAFWのメインイベントである夜のショーは、有料にもかかわらず、ほぼ満席で盛り上がりを見せた。

 


Tzuji :NYやロンドンを拠点に活躍するスターDJ、Lally Teeによるユニセックスなブランド。
当初自分のステージウェアとしてデザインしていた。今年、ブランド化

 

パリ、ミラノ等から発せられるメインストリームとは一線を画した、オルタナティブな要素が凝縮されたイベント。来年は拡大した形で開催したい、と主催者は意気込む。



フランクフルト在住。身長152cm。大きなドイツ人の中にいると小人のように見えるらしい。小回りだけは利くジャーナリスト兼通訳。ファッションからヘルスケアまでをカバーする。



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