どうしてもウェディングドレスを見たいと主張する幼い娘を連れて、売り場に行ったお母さん。ガラス越しにドレスを眺めていると、販売員が中に招き入れ、本物のティアラをつけてくれた。
娘は内弁慶のため、その場で大喜びするような反応はしなかったが、最後にぼそっと「ウェディングドレスは伊勢丹で買いたい」とつぶやいた…。
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今月初旬、伊勢丹新宿本店を訪れた女性がツイッターに投稿した体験談がSNS(交流サイト)で〝神対応〟として話題になった。「どうみても客にならない私たちに、夢を与えてくださって感動した」と記した母親のツイートが共感を呼び、合計2万人以上がリツイートした。
キラキラのティアラをつけてもらって、緊張したように固まった様子の女の子の写真も手伝い、「かわいい!」「涙が出た」などの声が飛び交った。
この母娘を接客したのは、同店7階のウェディングドレス売り場「イセタンブライド」のスタイリストの水野絵美さん。「特別なことは何もしていません」と控えめだ。心掛けているのは「どんなお客様に対しても、相手の立場に立って、何を考えているのか想像するという基本的なこと」だという。
「購入目的がないと入りにくい売り場かもしれないけれど、忙しい日々の中でわざわざ来店した伊勢丹のお客様。せっかくドレスを見たそうにしているのだから、喜んでもらいたかった」と振り返る。
たしかに女の子はあまり感情を出さなかったが、「自分も子供の時は内弁慶。実はうれしいんだなという気持ちはよく理解できた。同時に、お母様に気をつかわせてしまっているかも」と場を和ませていると、別のスタイリストがティアラやベールをバックヤードから持ってきて、女の子に試着してもらう流れになったという。
水野さんは学生時代にファミリーレストランのアルバイトを始めて以来、接客一筋。昨年まで取引先の販売員として名古屋三越星ヶ丘店で勤務していたが、三越伊勢丹が取引先を含む優秀販売員を認定する制度「エバーグリーン」で表彰されたのを機に、16年4月に同社へ入社した。
この仕事の魅力は、「関係性はお客とスタイリストでも、人と人として、家族や友人と同じように思いやりを持って接することで、自分も心の底から笑顔になれる」ことと語る。
今回の話題がここまで拡散されたのは、百貨店に出かける人々には物だけでなく、夢や体験を買いたいという期待があるからだ。同時に、そうした接客を受ける機会が少ないことの裏返しかもしれない。