次のステップへの助走期間
繊維・ファッション業界に関わる26の団体を束ねる。昨年1月に会長に就任。産地など業界各所を回って感じたのは、「前向き」だということ。今は「次のステップに向けた助走期間」とポジティブに捉えている。
――17年を振り返って。
昨年はEU(欧州連合)とのEPA(経済連携協定)、TPP(環太平洋経済連携協定)11が大筋合意に至りました。グローバルな経済連携が進展したという意味で、非常にエポックメイキングで、実りがあった年だったのではないでしょうか。
TPP11は米国の離脱で規模は小さくなりましたが、関係各国が方向性を変えず、諦めずに1年で大筋合意を取り付けたことは評価できます。RCEP(東アジア地域包括的経済連携)の交渉進展に向けても大きな道筋ができたと思っています。
繊維産業については良くもなく、悪くもない。アパレル、ファッション業界は厳しい時代が続いているという印象を持っていましたが、ある時期から少しずつ再浮上しつつあるんじゃないかと見ています。
国内の衣料品市場は90年代初頭に金額ベースで15兆円だったのが10兆円を切り、縮小してきました。しかし、この6年くらいは少しずつ増えていますし、平均単価も上がっています。
消費マインドの緩やかな回復、調達コストの上昇による値上げなど様々な要因はありますが、数字の動きを見ていると、繊維産業は今、次のステップに向かう助走期間に入っているのではないかと感じます。
業界を回っていますと、ネガティブな話はほとんどありませんでした。課題が明確になり、これからどうするのかと前向きな議論が始まっています。「もうどうしようもない」という雰囲気はなかったですね。
――展望が見えてきた。
展望と言っても、1年先の展望はなかなか見えてきません。ただし、道筋は見えてきたのではないでしょうか。
私は100年が一つの節目だと思っています。戦後を一つの大きな節目とすると、1945年から100年後は2045年。2045年はAI(人工知能)が今のペースで発達を続けると、人間の知能を凌駕(りょうが)してしまう――というシンギュラリティー(技術的特異点)を迎える年と言われています。
この100年を見ると25年ごとに転換点があった。それは繊維産業の歴史とかなりオーバーラップしています。輸出が活発だった戦後の25年間、日本のファッション市場が花開いた次の25年間、〝失われた20年〟という期間も含む今は、次の転換点である2020年に向かう端境期です。
そして、この次の25年間は節目の2045年に向かう期間。デジタル革命の力によってものすごいスピードで進むでしょう。革新的な技術がどんどん登場し、AIの進化も速い。
その中で繊維産業はどうなるのか。私は経済産業省が提唱している「コネクテッド・インダストリーズ」が、これからの繊維産業を考える時に非常に適用しやすいコンセプトではないかと思っています。
明確な課題に前向きな議論
――適用しやすいとは。
日本の繊維産業の強みは分業体制がしっかり築かれていること。IoT(モノのインターネット)技術を活用して産地間を横断的、あるいは垂直的につなぐなど、既にあるもの同士でコネクトして課題の解決と、付加価値を創出するやり方を探っていける。そういう意味ではポジティブに見ていますし、これから飛躍する時期に差し掛かっているんじゃないでしょうか。
これは〝中抜き〟をするとか、ディスラプション(破壊)するといった話ではありません。サプライチェーンを全部つないでいこうという考え方です。繊維産業は基盤があるからつなげることができるとも言えます。
――繊産連の活動について。
今年も引き続き通商問題に積極的に取り組みます。日中韓FTA(自由貿易協定)に向けては中国、韓国の繊維産業団体とのコミュニケーションを強めていきます。次の日中韓政府の首脳会談を見据え、民間の団体が先行して議論し、意思疎通を図っておきたい。この3カ国はRCEPでも中心的な役割を担うでしょうから、意思疎通できていることは重要です。TPP11については、経済効果がより大きくなるよう、米国の復帰を政府に働きかけていきます。
環境・安全の取り組みについても力を入れています。自然環境や人の健康に配慮した事業活動は世界の潮流です。アパレル業界に関わるところではSAC(サステイナブル・アパレル連合)や、有害化学物質排出ゼロを目指す企業グループのZDHCなどの動向を追いつつ、意見交換を進めていきます。
「J∞QUALITY(Jクオリティー)商品認証事業」は15年に立ち上がり、3年が経過しました。認証企業、商品認証数は着実に増えています。主体である日本ファッション産業協議会を政府とともにバックアップすることが私たちの役割です。関わる企業や産地などの団体が多いので、それぞれの考えを丁寧にヒアリングして把握し、認識のずれが起こらないよう努めています。今後、輸出の促進やインバウンド(訪日外国人)需要への対応なども含めて事業をもっと発展できるようサポートしていきたいと考えています。