【インタビュー】日本SC協会会長 清野智氏

2018/02/05 04:29 更新


日本ショッピングセンター協会 清野智会長

来場する楽しさを提供する

 国内のSCは3200カ所を超え、売上高規模は約32兆円に迫るなど、毎年着実に拡大している。ファッションビジネスの成長にとって不可欠の存在となり、地域経済の発展や雇用創出、地域コミュニティー形成の要としても大きな役割を担っている。一方、個人消費の低迷やECの急成長、ミレニアル世代(80年代から2000年前後に生まれた世代)の台頭が消費市場の変化を加速させている。SCの店舗で働く人材不足問題とも絡み、ECとの競争・共生などの課題対応を迫られている。

 ――17年のSC業界は。

 売上高は17年3月から連続7カ月間前年水準を上回りました。婦人衣料が伸び悩んでいますが、「SCにも変化の波が押し寄せてきた」という声が聞こえている中ではむしろ健闘したとみています。だからといって個人消費が「元気になった」という実感はなく、18年に明るい見通しを持っているわけではありません。

 ――どのような変化が。

 ECの成長が今後SCにどのような影響を与えるかが大きな関心事です。米国の事例を見るとECの成長がSCや百貨店の店舗を大きく減らす原因になっています。この現象が日本にも起きてくるのか予測はつきません。

 ECの成長に加えて、消費の潮流に「シェアリング」や「リユース」「リサイクル」「レンタル」といった〝賢い消費〟の傾向が表れてきました。とりわけミレニアル世代でこの傾向が強まっています。こうした変化に手をこまぬいているだけでは、「18年が明るくなる」とは決して言えません。

 ――何をしたらいいのか。

 消費や市場の変化にどのように対応していくのか、長期的にはテナントとディベロッパー、関連会社の3者が一緒になって考えていくことが大事です。SC協会は3者をしっかり結んで解決の方向を見いだすことに努めます。

 近々の課題と言えばSCの営業時間や休日問題です。どのようにすればディベロッパーにもテナントにも最良なのか、協会はこの課題を検討・議論する〝場〟を提供することが大事な役目です。絶対的に正しい答えはないでしょうが、相対的にどのようにすればディベロッパーやテナント、お客様にとって最良のものができるか、いくつかの変化の兆しが見えてきた中で、最良の方向性を示せるようにしっかり議論していきたい。

 ――人不足、「働き方改革」が焦点に。

 大きな課題になっているのが「働き方改革」です。特に「テナントの従業員不足」が大きな課題として浮上してきました。待遇をどうするのか、時給単価を上げれば解決するのか、そういう問題だけではありません。

 考えなければならないことは二つあります。一つは「待遇改善」で、もう一つは「時間的な制約」です。特に働く時間(超過勤務)や休日の問題は、協会の総務委員会の中に専門員会を設け重点的に論議しているところで、そう遠くない時期にSC協会として、ディベロッパー、テナントに望ましい方向性を出したいと思っています。

 テナントで働く従業員のステータス(社会的地位)をもっと上げていく必要もあります。従業員が「この仕事に就いて良かった」とプライドを持ち、ステータスを上げる一助を期待して「SC接客マイスター」の資格制度をスタートしました。この資格制度を基に素晴らしい接客力を持つ人材を数多く輩出できるなら、SCに多くのお客様を呼び、ECにも負けない力になっていくでしょう。

街や地域と一緒になって工夫


 ――ECが伸びる中でSCに足を向けさせるには。

 ECの無機質な画面に向かって買い物をするよりも、店員の接客を受けながら楽しく買い物ができる店づくり、高い接客力を持つ人材の配置などに注力するなら、お客様は実店舗に足を運ぶと思います。

 若い世代を中心にデジタル端末で情報収集やコミュニケーションを取っていますが、相手の顔や反応を見ながら会話や買い物をすることが正常なことだと思います。そのためにも実際の店舗に足を運んでもらって楽しんで買い物ができる環境をしっかり提供することが大事になっています。

 17年のSC全国大会で地域貢献大賞を受賞したトレッサ横浜は、お客様を呼び込むために毎日のようにイベントを開催しています。ワクワク・ドキドキ感の提供に一生懸命取り組み、来場する楽しさを提供し続けています。

 このようにもっと集客のための知恵を出していく必要があります。例えば地方都市のSCでは、館だけでなく街や地域と一緒になってお客様を楽しませる工夫で客を集めるなら、買い物の場所がECに取って代わられるということはないでしょう。

 ――デジタル戦略は欠かせない。

 実店舗での「楽しさ」や「満足」の提供に加えて、来場促進や楽しさ提案、試着システムなどでデジタル活用がますます重要になっています。ブランドを揃えることも大事ですが、それだけに頼るのではなく「来場する楽しさ」をデジタル活用でどのようにして提案していくか、3者でもっと知恵を出していく必要があると考えます。

 ――少子高齢化が進む中で地方SCのあり方は。

 江釣子SC(岩手県北上市)も地方都市での成功例の一つです。高齢者や地域に住む人たちがSCに集まって情報交換したり、一緒になって楽しんだりとSCが地域コミュニティーの役割を果たしています。この機能がもっと大事になってくるでしょう。「孫消費」という言葉があるように高齢者と孫とを結びつけた集客や販売の仕掛けもこれからはもっと増えてくるに違いありません。



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