水泳が紡いだ新ブランド アキレスアンドセンチュリオCEOのヤスさん

2020/12/09 06:26 更新


《スタンス》水泳が紡いだ新ブランド 五大陸転戦の人脈生かし アキレスアンドセンチュリオCEOのヤスさん

 「水泳競技で8年間、世界五大陸を転戦。その経験を生かして〝水〟にまつわることを仕事にしたい」。ロンドン、リオデジャネイロと五輪2大会連続出場のオリンピアンであるヤスさんが、ライフスタイルブランド「アイ・スイム・アンド・トラベル・アラウンド・ザ・ワールド」を立ち上げた。競技を通じて世界のスイマーや関係者と出会って紡いだ知己が強い武器だ。12月1日から自社ECで世界に向けて販売を始めた。

(永松浩介)

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 ヤスさんは小さい頃から水泳競技に打ち込み、明治大学在学中に海などを会場にするオープンウォータースイミング競技に転向した。卒業後は朝日ネットなどとプロ契約、拠点もオーストラリアに移し、世界を転戦した。12年ロンドン、16年にはリオの五輪に日本代表として出場し、リオではファイナリストとなり入賞した実績がある。

現役引退後に起業

 高校生の頃はファッションへの関心から原宿にも通っていたという。「僕は裏原の最後の世代。お金を握りしめて我孫子(千葉県)から裏原のお店によく行きました」。雑誌がとにかく好きで、大学時代は当時一番好きだった雑誌に自ら売り込み、コラムを書かせてもらったこともある。「裏原文化は憧れだったけど、ただのヘッズ(ファン)では嫌で、自分も個として際立ち、対等な関係にまで上がりたかったし、それが水泳を頑張るモチベーションだった」。

 20年1月に29歳で現役を引退。ファンドや個人の出資を得て、アキレスアンドセンチュリオ(東京)の代表に就いた。事業は三つ念頭にあるが、第1弾は好きな洋服軸のライフスタイルブランドだ。世界を転戦する中で、スイムがライフスタイルにある人口の多さに気付いたのがブランド開発のきっかけ。「サーフやアウトドアブランドのように街着としてのファッション要素を満たすブランドがなかった」。市場性はあると踏んだ。

 武者修行の海外経験で培った持ち前の行動力で、好きなブランドや製造元のドアをたたき、自ら生産委託先を探した。岡山県倉敷市のデニムアイテムなど、主に西日本で作っている。「転戦先でセレクトショップに行くと日本製のブランドが並んでいて誇らしい。日本製は強みになる」とヤスさん。

 最初のコレクションは、デニムジャケット(6万8000円)やビジネスシャツ(2万1000円)、プレミアムTシャツ(2万円)など。全ての商品に撥水(はっすい)加工を施した。通常のファッションブランドのようなシーズンごとの企画は設けない。「グローバルで考えたらシーズンはあんまり意味ないな、と」。それよりも、ビジネスやパーティーなど「どんなシーンでもアジャストできる企画にした」という。来春にはフィットネス用水着やヨガウェアもリリースする予定だ。

最初のコレクションのモデルには親交の深いオランダ代表チームの選手らを起用した(リオ五輪金メダリストのフェリー・ウェールトマンさん)
最初のコレクションのモデルには親交の深いオランダ代表チームの選手やトレーナーを起用した(代表コーチのパトリック・ピアソン氏)

ECで世界へ販売

 DtoC(メーカー直販)モデルで運営する。このほどオープンしたECは日・英表記で世界に向けて販売し、初年度2億円の売り上げが目標だ。知名度はまだまだだが、世界のスイマーとのコネクションは広く、それらのネットワークもフル活用する。同時に、出資元のファンドは他のDtoCブランドにも関わっており、その知見を生かしたデジタルマーケティングにも力を入れる。

 最も力を発揮しそうなのが自らも参加するイベントだろう。期間限定店のほか、水泳絡みのイベントも計画している。「例えば、イアン・ソープと泳げたりしたらすごくないですか」。音楽フェスなどとイベントのアイデアも温めている。「極端にいえば洋服はツール。品質には自信があるけど、それに体験価値を加えることでもっと強くなる」。

 24年に上場することを目標に掲げている。ベンチマークしているブランドは「ルルレモン」だ。「ヨガというライフスタイルであそこまで行ったのだから、水や海の切り口のライフスタイルブランドでも行けるはず」と意気込んでいる。

元五輪スイマーのヤスさん


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