日本の伝統を革新する「ヒルメ」 石川県の職人と協業

2020/03/04 06:28 更新


 ファッションジャーナリストの生駒芳子さんが総合プロデュースするブランド「ヒルメ」は、日本の伝統工芸の革新を目指して各地の工芸品にスポットを当ててきた。このほど発表した新作は、石川県の伝統工芸職人との協業によるウェアや雑貨など。加賀友禅や輪島塗、能登上布の新作が揃った。

(青木規子)

化学反応促す

 日本で伝統工芸に携わる職人は、欧州の職人技に勝るとも劣らない卓越した技術を持っている。しかし、「未来がない」と嘆く職人は多い。そんな現状に衝撃を受けた生駒さんは、伝統工芸の技と現代的なデザインを融合し、化学反応を促す実験室としてブランドを立ち上げた。さらに、伝統工芸の後継者育成を支援することも目的にしている。

 石川県の職人との取り組みは、今年で3年目になる。今回は、加賀友禅のコートや輪島塗のボタンやバングル、能登上布のバッグなどを作った。

 加賀友禅の新作は、毎田染画工芸3代目の加賀友禅作家、毎田仁嗣さんが担当。黒いシルクのロングジャケットの左身頃に、黒留袖のような感覚で植物の文様を描いた。一つは南アフリカ原産のアガパンサスの淡い紫の花、もう一つは様々なブルーで描いた古典文様の麦の柄。しなやかで現代的なジャケットに、友禅の伝統を重ねた。40万円。

加賀友禅のジャケット

 輪島塗では、2人の職人と1人の漆器プロデューサーがそれぞれ新作を披露した。輪島塗の最終工程にあたる上塗りの伝統工芸士で、采色塗なか門4代目の中門博さんは、ゴールドから黒、黒から赤へとグラデーションを描くモダンなバングル(3万円から)を制作。1769年から代々漆業を営み、現代は蒔絵漆芸を主に手掛けるアトリエミタニの三谷尚史さんは、黄金の繊細な羽根の蒔絵が浮かび上がるブローチやイヤリングを制作した。3万2000円から。

輪島塗の上塗りを施した中門博さんによるバングル
三谷尚史さんの輪島塗のアクセサリー

 田谷漆器店の10代目の漆器プロデューサー、田谷昂大さんの仕事は、職人と客をつなげること。今回は、産業興隆に努めた加賀藩の五代藩主、前田綱紀が編集した工芸の百科事典「百工比照(ひゃっこうひしょう)」にある技術を、ボタンで再現した。深い赤や黄、青などのボタンは5個セットで8万円。単品は1万8000円。加賀友禅のジャケットに付け替えて楽しむことができる。

 能登上布の山崎麻織物工房の山崎隆さんは、トートバッグやポーチ、PCケースを制作。能登上布は透け感やシャリ感、光沢感が特徴で、夏の最高級のきものとして愛好されるものだが、その凛(りん)とした絣柄や縞模様、落ち着いた色合いを現代的なアイテムに落とし込んでモダンに昇華させた。3万5000円から。

輪島塗のボタン(田島漆器店)と能登上布のPCケース(山崎麻織物工房)

手仕事の実演も

 これらの工房は、仏パリのメゾン・エ・オブジェなど国内外の見本市に出展しているところも多く、視野も広い。新作発表の会場では、商品を説明しながら手仕事の技の実演も行った。商品は、東京・表参道にあるヒルメのショールームで販売する。受注も可能。

 同時に、ユナイテッドアローズ名誉会長の重松理氏が手掛ける順理庵とヒルメの協業コレクションも発表した。ヒルメのシグネチャーモデルのスカジャンを順理庵とのダブルネームで作った。片面はシルクに両社のロゴ、もう片面は袖が青海波文様、身頃が宝尽くし文様になっている。18万円。日本の文様が浮かび上がる黒いコート(15万円)も揃う。順理庵との協業商品は、銀座の順理庵で販売する。



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