21年春夏オートクチュールは、外に出て人々が集うことを夢見て、ダンスパーティーを背景にしたコレクションが相次いだ。ジェンダーフリーやサステイナビリティー(持続可能性)を背景にしたコレクションも継続している。
(小笠原拓郎)
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シャネルは、家族が集まる温かなパーティーをショーの演出と重ね合わせた。会場となったのは例年通り、パリの歴史的建造物グランパレ。そこに階段から続く花のアーチをくぐって、シャネルのファミリーたちが待つ円形のシートにモデルたちが腰かけるという演出だ。
肩が構築的なレースのブラウス、シャネルらしいツイードのトリミングコート、ラメツイードはトリミングのベストとパンツのセットアップにも使われる。たくさんのフリルを重ねたスカートにフリルを重ねたピンクのドレスなど、たくさんのフリルが服を彩る。立体的なフラワー刺繍の透明感のあるドレスなど、随所に手仕事の技が散りばめられる。フィナーレには馬に乗って新婦が登場。温かな結婚式のイメージで締めくくった。
「私は家族が大勢集まる場が大好きです。様々な世代が一同に集うことで、とても温かな気持ちになります。今のシャネルにも同じスピリットがあります。シャネルもまた、一つの家族のようなものだからです」とヴィルジニー・ヴィアール。
ヴィクター&ロルフは、「クチュールレイブ」のショー映像を見せた。「これまでのパーティーとこれからのパーティーに触発された架空のショー」で、オートクチュールとアンダーグラウンドパーティーが出合うという演出。アムステルダム郊外の元軍需工場を会場に、このところ継続しているアップサイクリングの新作を見せた。ビンテージレースやジャカードの小さなパッチ、ビンテージのドレスの断片といった布をアップサイクルして作る。ブラトップにフレアスカートなど体を意識したアイテムがメイン。一方でゆったりしたドレスもある。そのいずれもが、たくさんのリボンやコサージュのパッチワークやテープ刺繍とリボンの組み合わせでできている。中にはビンテージの「遺失物取扱所」のジュエリーピースで作られたものもある。
キム・ジョーンズによる初のフェンディのクチュールは、ヴァージニア・ウルフの小説「オーランドー」を背景にしている。ウルフとヴァネッサ・ベル姉妹の、伝統から解放されたクリエイティビティーとともに、イタリア彫刻とブランドのコードを探求した。時を旅し、両性の境界をぼやけさせるオーランドーからイメージして、ジェンダーの境界を感じさせるアイテムが揃う。パンツスーツは袖がそのままトレーンとなって後ろに流れ、ドレスの半身はジャケットのような袖と切り替えられる。そこにマーブルのきらびやかな柄が厳かなムードを生み出す。モデルたちはガラスの空間で、マネキンのように微動だにせずたたずむ。それが時も性別も超えるオーランドーのストーリーとシンクロする。