【連載】ローカルでいこう 17年春・福岡編③

2017/05/05 06:30 更新


 東京や大阪から福岡にUターン、Iターンする話をよく耳にする。13年12月に創刊した福岡のファッション誌『リリー』の上野圭助編集長(35)も、その1人だ。

 出身地は福岡市の隣で、今や〝移住したい町〟として全国的に知られる糸島市。20~26歳まで東京で暮らし、東京モード学園、アシスタントを経てスタイリストをしていた。

甘くはない

 帰郷を決めたのは「元々、田舎の人間なので、東京での生活に疲れた」から。しかし、いざ帰ると「仕事は全然無かった」。福岡市は地方創生の一環として、デジタル分野を中心にクリエイティブ関連事業の振興を掲げているが、「食えているクリエイターはそんなに多くはないと思う」とシビアに分析する。

 地元広告のスタイリングを担当しつつ、リリーでは編集、アートディレクション、スタイリング、ライティング、ウェブ制作まで行う。美人が多く、芸能事務所も多い土地柄を反映してか、リリーを発行するのも芸能事務所。

 当初は福岡発の雑誌とうたわず、全国誌のようなイメージで売っていた。しかし約1年前から、「福岡でやっている以上、福岡を打ち出したい」と考えが変わってきた。「ヒッピネス」「サラナン」など福岡のブランドを福岡のモデルに着せ、福岡のクリエイティブチームで形にする。目指すは「博多名物の明太子の横で、お土産としてリリーを販売すること」だ。

3カ月に1回の発行で1冊500円。福岡美人の表紙が目印 

地元を知らない

 考えが変わったきっかけの一つは2年前、ヤフーニュースでリリーが紹介された際の周りの態度だった。「その直後から、地元メディアの取材が入り始めた」。それまでは特に反応が無かったのに、東京のメディアが取り上げた途端に追随する地元メディアに疑問を感じ、「自分の足で情報を探すことを怠ってはいけないと思った。だからこそ、リリーでは地元のブランドに光を当てたい」と話す。

 福岡の消費者にも歯がゆさを感じている。「皆すごくミーハーで、東京の情報番組が発信するような内容を〝主〟だと思っている。福岡の人が福岡のことを知らないから、福岡を拠点にしているクリエイターはやきもきしていると思う」

 外から見れば、福岡は暮らしやすく、クリエイターが住みやすい街のようだが、上野編集長の認識は真逆。しかし、厳しい言葉は地元愛の裏返しでもある。福岡でやっていくことの難しさを知るからこそ、「東京から戻ってきた人を含め、リリーは福岡で何かやりたいという若いクリエイターを歓迎する。僕もそうだったから、そういう人に場所を提供したい」と話す。

上野圭助編集長 




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