【連載】ローカルでいこう 17年春・福岡編①

2017/05/03 06:35 更新


 東京への一極集中を是正する〝地方創生〟が政府主導で進められているが、うまくいっている地方自治体はそう多くない。そんな中で、福岡市の人口増加率の高さは全国でも際立ち、若年人口比率も高い。ファッション業界でも、首都圏や大阪から福岡へのUターン、Iターンは増えている。人を引き付ける福岡と、この街のファッションの今を追った。(五十君花実)

 大名地区にセレクト店がひしめいた90~00年代に比べると、福岡でもファッション消費の熱は落ちている。天神や博多地区の駅ビル、ファッションビルの中身は、東京や大阪とほぼ同じ。再開発によるオーバーストアもあり、同質化は進んでいる。


同質化に風穴

 そこに風穴を開ける企画が、14年夏に始まった「福岡Tシャツマーケット」だ。天神や大名のセレクト店、飲食店が参加し、福岡をテーマにしたTシャツを製作・販売している。天神のヴィオロ5階でセレクトショップ「ナウユーノウ」を運営するカラーフィールドの秦寛史社長が立ち上げた。地元愛とファッションとを結び付け、購入層は一部のファッション好きだけでなく、老若男女に広がっている。


福岡Tシャツマーケット発起人の秦寛史社長 

 「きっかけは、ブルックリンやパリジャンなどのロゴが入ったTシャツを着ている若者を街でよく見たこと。ここは福岡なんだから、福岡Tシャツを作ろうと思った」という秦社長。「自社だけでやっても盛り上がらない。やるなら皆でやろう」と他社にも声を掛け、14年は十数店が参加。半信半疑だったが、福岡パルコでの催事は予想外にヒットし、期間を延長した。結局、2カ月でECを含め約2000枚売れた。

 好調を受けて参加店は増え、16年は約30店が参加した。催事も16年は福岡パルコ、アミュプラザ博多、木の葉モール橋本、さらに県外の東京・渋谷パルコでも行い、計5000枚を販売した。

ノリで売れる

 福岡や天神、糸島など地名をアレンジしたロゴTシャツ(3000~4000円台)が売れ筋だ。14年は若者が中心だったが、15年以降は幅広い年代が購入している。元々、福岡は地元愛が強いと言われ、それを象徴しているようだ。

 耳が痛いのが「アパレル店が作ったTシャツより、飲食店が作った物の方が売れる」事実。「アパレルの人はこだわってしまうが、飲食の人は客と相談しながらノリで作る。ここに、今のファッション業界と消費者との意識のギャップを感じる」と秦社長は話す。


Tシャツの発展形の山笠や屋台、うどん、梅といったご当地モチーフを盛り込んだ福岡スカジャン  

 福岡Tシャツの発展形として、ナウユーノウでは16~17年秋冬に福岡スカジャン(3万5000円)を作った。福岡のロゴとともに、博多祇園山笠など地元のモチーフを刺繍した。「40~50代の、ファッション好きなどではない地元の普通のおじさんに一番売れている」という傾向は、Tシャツと共通する。

 「ファッション業界はトレンドを押し付けることを続けてきたが、今は消費者が本当に共感するものしか買わなくなった」とみる秦社長。福岡Tシャツは、まさに地元愛という共感を呼んでヒットした。同質化が極まっているからこそ、「福岡のビルの良い場所には福岡の店があるべき。(福岡Tシャツのように)ここじゃないと成立しない店をいかに作れるかが重要」と話す。



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