機能素材開発は次の段階へ 快適さに意匠性加え広がる

2019/03/04 06:45 更新


【記者の目】機能素材の開発は次の段階へ 快適さに意匠性加え広がる

 衣料用機能素材の開発が次の段階に入っている。従来のようにアスリートのパフォーマンスアップを支える機能を追求するとともに、一般の生活者にとってもより快適な着用感と、日常生活になじむ素材の意匠性の追求に一段と力を入れてきたため、機能素材の着用シーンが多様になってきた。

 最近では繊維の生体センサーや、人体に働きかけて運動効率や休息効率を高める新素材も注目されている。

(小堀真嗣=本社編集部素材担当)

気候変動や生活の変化

 近年、機能素材の開発を加速させたのは、気候変動やライフスタイルの変化が大きな要因だろう。近年は猛暑が続き、夏場だけでなく9月以降も残暑が厳しい。昨年は12月まで最高気温が20度を超える日もあった。オフィスカジュアルは一層浸透し、ストレスフリーな仕事着を選ぶ傾向が強まってきた。このため、スポーツウェア用途だけでなく、日常生活で着用する衣料にも優れた通気性や汗処理、遮熱性、伸縮性などの機能でより快適な環境で過ごしたいというニーズは高まっている。

 さらに、20年夏に開催を控える東京五輪を目前にスポーツへの関心が高まっていることと、スポーツスタイルをミックスしたファッショントレンドのサイクルが巡ってきたことは、機能素材のデザインバリエーションや風合いなど感性の部分を進化させるきっかけになった。

 昨年末に合繊メーカー各社が開いた20年春夏向けの機能素材展では、とりわけ暑さや蒸れによる不快感を和らげる素材が目立った。「激しさを増す昨今の猛暑対策は非常に重要」というユニチカトレーディングは、〝高通気プラスアルファ〟の素材群「フリーダム」を打ち出した。生地の組織で通気性を出すだけでなく、遮熱効果の高い独自機能糸を組み合わせるなどクーリング機能を向上した。東レは伸縮素材「プライムフレックス」でUV(紫外線)カット、防透け性、遮熱性を複合したタイプを出した。

 旭化成アドバンスの「バイオセンサー」は、キュプラ「ベンベルグ」の特性を生かして湿気や汗を吸収すると編み目が開き、熱や湿気を外に逃がす。帝人フロンティアは新素材「デルタSLX」を発表した。高バランス織・編物「デルタ」の技術と、PTT(ポリトリメチレンテレフタレート)繊維「ソロテックス」を組み合わせ、新たなクリンプ構造の糸を開発して生地化した。天然調の外観、風合い、しなやかな伸縮性という特徴と、2種類の微細なクリンプ構造が毛細管現象を促進し、吸汗速乾性も優れている。

 これらの素材は機能とともに、天然の杢調や微細なしわ感、柔らかい触感、仕立て映えするハリコシなどデザインや風合いも一段と工夫を重ね、スポーツだけでなく、日常生活、ビジネスシーンなど様々な場面で着用する衣服ごとに使いやすくなっている。

旭化成アドバンスの20年春夏向け機能素材展

能動的機能素材の登場

 新たな機能素材の登場も注目されている。例えば、導電性繊維などを使った生体センサーや、天然の鉱石を粉末化したものを特殊配合し、繊維やシリコーンなど様々な素材に練り込んだ物で人体に働きかけて運動効率や休息効率を高めるという。従来型の素材は例えば、「汗が出たら吸って拡散する」という〝受動的〟な素材とすると、新たな機能素材は〝能動的〟な素材と言えるだろう。

 ウェアラブル製品の中核技術の一つである生体センサーは銀メッキ繊維のミツフジをはじめ、合繊メーカーなど複数の企業が開発を強めている。進捗(しんちょく)に差はあるものの、高齢化社会で予防医学への関心が高まる中、安心、安全に対するニーズは日本だけでなく世界で増大すると見られている。

 一方、トリピュアジャパンの「アドエルム」は人体を構成する様々な元素と、元素の呼応反応に着目した技術。元素の組み合わせを変えて調合したミネラルパウダーを素材や製品に加工し、加工した物を身に着けると運動効率や快眠を促すという。地道なプレゼンテーションを続け、トップアスリートの採用にも結び付いているほか、商品の付加価値を上げたいというアパレル企業やアクセサリーメーカーが協業を持ちかけるケースも増えている。

 これらの素材に課題があるとすれば、適切な第三者機関での臨床検査を経て、効能があるという根拠を示すことだろう。例えばミツフジはこれから医療機器として認証を得た製品を市場に投入する。

 医療領域では言うまでもなく、「極めて精緻(せいち)な分析を基に本当の意味での安心、安全を提供できるハイレベルな製品・サービスでなければならない」(三寺歩ミツフジ社長)からだ。必要なプロセスをクリアし、技術的な証明が得られれば、次世代の機能素材として世界に市場が開けるはずだ。

(繊研新聞本紙年1月21日付)



この記事に関連する記事

このカテゴリーでよく読まれている記事