商社の繊維・ファッションビジネスで、社会全体のサステイナブル(持続可能)に資するための業務提携や新規プロジェクトに向けた動きが活発化している。今や循環型社会の発展を目指すことは事業における必須の課題となっている。環境負荷が高いとされる繊維・ファッション産業の変革に向けて、商社の具体的な施策が求められている。
バリューチェーン背景に
伊藤忠商事は世界最大のリサイクルナイロンブランド「エコニール」を生産する伊アクアフィルとナイロン循環リサイクルに関する業務提携を締結した。伊藤忠商事は今回の提携を契機に「ナイロン廃棄物の回収からリサイクルナイロンを原料とした最終製品の開発、販売まで本格的に取り組む」構えだ。
カーボンニュートラルへの対応が世界中で急務とされる中で、石油化学製品のリサイクル比率の向上は最重要課題だ。特にナイロンは石油由来の化学繊維及びプラスチック原料として、ファッション、カーペット、漁網、食品包材、自動車用部材など幅広い分野で使用される一方で、「他原料との複合素材として使用されている製品も多く、リサイクルが難しい素材の一つ」(伊藤忠商事)。
アクアフィルは、独自の技術でナイロン廃棄物をケミカルリサイクルによって粗原料であるカプロラクタムまで戻し、不純物などを完全に除去し、バージン材と同等品質で再利用できる循環リサイクルシステムを構築。エコニールは環境配慮型素材としてファッション業界やカーペット業界などを中心に、全世界2000社以上のブランドで採用されている。特にファッション業界ではグッチやバーバリー、プラダなどの著名メゾンから大きな支持を受けている。伊藤忠商事はナイロン原料のカプロラクタム及びナイロンチップについて、数量ベースで世界最大規模の取り扱いをしており、伊藤忠商事の持つ〝ナイロンバリューチェーン〟の活用とアクアフィルのエコニール事業の方向性が合致し、締結するに至った。今後は伊藤忠グループの持つ多様なネットワークを活用して、既存の販売チェーンからの廃棄用ナイロンの回収スキームを構築する予定だ。
二酸化炭素排出量ゼロ
三井物産アイ・ファッション(MIF)は、オリジナルテキスタイル「クロスアプリ」の環境配慮型素材を集めた「クロスアプリグリーン」シリーズの提案に注力している。「ボタニカル」(石油を使わない生地)、「ペット」(ペットボトルで作る生地)、「ノンダイ」(水を大切にする生地)など、六つのカテゴリーに分けて打ち出す。その中の「バイオ」(土にかえる生地)カテゴリーでは、ウールと生分解性のPLA(ポリ乳酸)複合を提案して、エコロジー素材としてのウールの表現の幅を広げる。米大手リサイクル原料メーカーによる海洋廃棄物から再生したポリエステル原料を使用した「オーシャン」は、秋冬向け生地として軽量でやや肉厚感のあるフリースを販売。「ループ」(ゴミを出さないアパレル革命)では、同社が生産に携わり販売された衣料品を回収して、再資源化する「クロスループ」を訴求する。
MIFはクロスアプリグリーンやクロスループなど環境配慮の取り組みによる売り上げの一部を、三井物産の社有林「三井物産の森」(日本全国74カ所、約4万4000ヘクタール)の植林活動に寄付。三井物産は「2050年までに事業全体の二酸化炭素排出量をゼロにする」ことを目指す。
目先の損得ではなく
豊島はWWF(世界自然保護基金)ジャパン、中国紡織工業連合会(CNTAC)、WWF中国などと共同で、中国の繊維工場の環境負荷低減を図るプロジェクト「テキスタイル・ゴーイング・グリーン」(TGG)を推進している。「最終目標として3000工場の賛同を得て、淡水生態系への環境負荷低減に配慮して生産された衣料品が中国から日本に入ってくる」(WWFジャパン)ことを目指す。
豊島は「20年6月にSDGs(持続可能な開発目標)に取り組むことを宣言したが、行動が伴ってこそ役割を果たせる。TGGでの取り組みは目先のメリット、デメリットではなく、ファッション業界のためにやらなければならないこと」と強調する。
(繊研新聞本紙21年2月19日付)