24年までにバージンポリエステルの使用撤廃を決めるなど、業界に先駆けサステイナビリティー活動に本腰を入れるアディダス。現在は、リサイクルや生分解性素材の活用による循環型製造プロセスの確立に力を入れる。ジャパン社のトーマス・サイラー副社長に概要を聞いた。
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我々は製造段階で「三つのループ」実現に挑んでいます。一つ目は海洋プラスチックごみなどを回収、素材にし、製品を作る「リサイクルループ」。二つ目は製品が使われなくなった段階で粉砕して、再び同じ素材で製品を作る「サーキュラーループ」。三つ目が素材自体を自ら培養して作り、製品が使われなくなった段階で土にかえる「バイオニックループ」。アディダスが年間に生産する6億~7億点の製品すべてをリサイクル可能か、土にかえるものに替えていくことが最終目標です。
リサイクルループでは、パートナーシップを組む海洋環境保護団体パーレイ・フォー・ジ・オーシャンにより、18~19年に5911トンのプラスチック廃棄物を海から回収しました。ペットボトル5億本に相当します。これらをアップサイクルして生まれたパーレイ・オーシャン・プラスチック(POP)を使った製品は、例えば靴なら、19年は1100万足、20年は1500万足生まれました。
我々は24年までにバージンポリエステルの使用をゼロにしますが、19年末にポリエステルの40%以上をリサイクルポリエステルが占め、20年末にはそれが50%を超える見込みです。
日本では昨年から始めたテイクバックプログラム(不要なアパレルや靴などを店頭回収し、リユース・リサイクルする)は、回収店舗が14から18へ増え、19年6月~20年6月にアパレルを1200キロ、靴を1300キロ回収しました。
サーキュラーループでは、TPU(熱可塑性ポリウレタン)のみを使った、100%リサイクル可能なランニング靴を作るプロジェクト「フューチャークラフト・ループ」を進めています。21年4月に一般販売するモデルは、第1世代のTPUを10%使う第2世代となります。素材の供給や製造工程、リサイクルのプロセスに課題があり、まだ完全なループには至りませんが、将来的には1足買ってそれが使えなくなれば、戻して新しいものと交換できる仕組みにしたいと考えています。
バイオニックループについては、昨年「アディダス・バイ・ステラ・マッカートニー」から、ボルト・スレッドと共同開発したバイオマイクロシルク製のテニスドレスを試作し、選手が着用しました。生分解性素材を使った製品の商業化・市販化も、当然、目指しています。
どの取り組みも完璧な状況になるのを待たずに世に送り出しています。一歩ずつ前へ進み、その中で学びを得る考えです。
アディダスは90年代からサステイナブル活動に着手しています。早い段階から取り組めたのは、環境先進国ドイツの企業であると同時に、経営幹部の信念によるところが大きいですね。この分野で先駆者となることで、製造段階で有益なポジションに立てるなどの利点があります。例えばPOPを使っても使わなくてもコストはほぼ同じ。シューズコレクション「クリーンクラシックス」では、製造過程で出るゴミを減らしたことでコストも減らせました。サステイナブルと言っても、必ずしも利益が出ないわけではありません。
(繊研新聞本紙20年9月17日付)