【ファッションとサステイナビリティー】“児童労働”問題の現在地は? 認定NPOのACEに聞く

2023/07/27 05:30 更新


 SDGs(持続可能な開発目標)の8番目「働きがいも経済成長も」のターゲット7には、児童労働、強制労働の撤廃が掲げられ、「25年までにあらゆる形態の児童労働を終わらせる」ことを目指している。コットン(綿花)の生産大国の一つ、インドではコットンの生産において児童労働が行われている。アパレル業界としては見過ごせない深刻な社会課題だ。児童労働問題に取り組む認定NPO法人(特定非営利活動法人)のACE(エース)に活動の到達点と課題を聞いた。

子供の10人に1人

 ――児童労働の現状は。

 ILO(国際労働機関)とユニセフ(国連児童基金)が21年に発表した報告書では、20年の世界の児童労働者数は1億6000万人(16年比840万人増)と推計された。00年に推計の発表が始まって以来、ずっと減少を続けてきた児童労働が増加に転じた。これは5~17歳の子供の人口の10人に1人。この報告書はコロナ禍より前の調査によるもの。「コロナ禍で貧困が増え、適切な対策が取られない場合、22年の終わりまでに児童労働者はさらに890万人増える」と予測。さらに、「緊縮財政で社会的保護が十分に行われなければ、4620万人増えて2億620万人に達する可能性がある」と指摘している。

 ――インドの状況は。

 インドではコットン生産において、15年に約48万人の児童労働者がいた。うち20万人は14歳未満で、労働力全体の25%。最新の調査(20年)では、児童労働者は35万人以上、そのうち約15万人は14歳以下、全体の60~70%が女子という報告があった。ただし、20年の調査は15年と比べて母数が少ないという点は注意しなければならない。

 ACEとしては、インドのコットン生産地域で危険な労働から子供を守り、子供の就学を徹底させることを目的に、10年からテランガナ州という地域で「ピース・インドプロジェクト」を実施している。現地NGO(非政府組織)のスピードとの協同で、労働からの子供の保護、ブリッジスクール(補習学校)の運営、女子の自立支援のための職業訓練提供、親への収入向上支援などをしてきた。

インド・テランガナ州のコットン種子畑で働く少女たち

 ――活動の到達点は。

 3村(人口計9600人)を〝児童労働のない村〟にした。六つのコミュニティーでは住民ボランティアグループが中心となって、住民自身の力で児童労働のない村を維持する仕組みを築いた。これまで18歳未満の子供1139人を児童労働から解放し、そのうち6~14歳の子供905人の就学を実現した。

「ピース・インドプロジェクト」で子供たちの就学を支援

権利守られる道筋作る

 ――課題は。

 同州では21年に児童労働に関する規則が改定され、児童労働者の雇用者に対する罰則が厳しくなった。しかし、法規制があっても、なかなか取り締まりは行き届いていないのが実態だ。

 コットン生産については企業が児童労働をなくすアクションを起こすためのアライアンスを組織したという動きも出てきたが、実体は伴っていないように感じる。コロナ禍の影響で就学が遅れている子供たちがいるが、教育を保障するような政府の取り組みが思うように進んでいない。残念ながら優先順位が低いのだと思う。現地の政府、企業のリソースだけでは問題の解決に限界があると感じている。

 ――今後の活動は。

 ピース・インドプロジェクトは8月で終了する。9月以降は現地のパートナー団体が引き継ぐ。ACEとしては今後、インドでの児童労働の問題に対する取り組みについて、実施体制を含めた計画を検討していく。

児童労働って?

 義務教育を妨げる労働や、法律で禁止される18歳未満の危険・有害な労働。世界の児童労働の7割を農林水産業が占めるという。89年に国連総会で採択された「子どもの権利条約」は「子ども(18歳未満)は教育を受ける権利をもっている」ことなどを示した。ILOが73年に採択した第138号条約では「最低就業年齢を原則15歳」とし、99年採択の第182号条約では「子どもを危険・有害な業務、そのほか最悪の形態の児童労働から守る」よう求めている。

 児童労働の原因は貧困が挙げられる。途上国の問題と捉えられがちだが、消費者の「低価格志向」や、企業の「低コストで利益を増やしたい」という思惑も間接的な要因と見られる。そのしわ寄せが生産者に負荷をかけ、「児童労働を生んでいるともいえる」(ACE)と指摘している。


ACE

 コットン生産国のインドと、カカオ生産国のガーナを中心に教育環境の改善や親の収入向上などを通じ、児童労働をなくすための活動を続けている。設立は97年。代表の岩附由香氏が学生5人でNGO(非政府組織)を立ち上げた。05年にNPO法人化、10年に認定NPO法人として認定を受けた。同年、ピース・インドプロジェクトの第1期支援を開始。23年3月、「第6回ジャパンSDGsアワード」で「SDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞」を受賞した。


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(繊研新聞本紙23年7月27日付)

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