22年のファッションの流れを振り返る ファッションウィークは輝きを取り戻せるか

2022/12/28 11:00 更新


再び観客を集め、服のエネルギーを見せる(シャネルの23年春夏コレクションから)

 22年のデザイナーブランドビジネスを通じて、いくつかのトピックスが浮かび上がった。1年を振り返りながら、課題と背景、来年に向けての見通しを考えたい。

(小笠原拓郎)

フィジカルの本格的な復活

 22年は、フィジカル(リアル)のデザイナーコレクションが本格的に復活した年となった。1月から3月にかけての22~23年秋冬コレクションの時期は、まだ日本から渡航するジャーナリストやバイヤーはほとんどいなかった。ファッションウィークもフィジカルとデジタルが混在する形で行われた。

 転機となったのは6月のパリ・メンズコレクションやオートクチュール。まだアジア圏からの来場者は少なかったが、この時期からフィジカルの本格的な復活が始まった。そして、9月はアジアからの参加者も増え、いよいよ本格的なファッションウィークの復活を迎えた。ショー会場には、デジタルでは感じ取ることができなかった服のエネルギーがあふれ、再会を喜びあう来場者たちを目にした。

環境を意識した物作りは依然重要

 フィジカルのファッションショーが復活しつつも、コロナを経て多様性や環境への配慮も引き続き重要な課題になっている。復活したファッションウィークでは、プラスサイズモデルやジェンダーフリーへの意識が顕著となった。年配のモデルも登場してダイバーシティー(多様性)をアピールするブランドもある。リサイクル素材をはじめとした環境への意識の高さを表現するブランドも増えた。

 「ステラ・マッカートニー」や「クロエ」など、以前から環境に配慮したクリエイションを続けるブランドは、再開したフィジカルショーでも変わらぬサステイナブル(持続可能)なクリエイションを披露した。若手ブランドの中では「ボッター」が海洋汚染を解決していくためのクリエイションを披露している。日本のアパレルブランドでは初となる「Bコープ」に認証された「CFCL」は、パリで初のプレゼンテーション形式でコレクションを見せた。

環境を意識したデザインは依然として強い関心(CFCLの23年春夏コレクションから)

変わらないファッショントレンド 

 フィジカルのファッションウィークが本格的に復活する中で、トレンドの周期が大きく変わったことが明らかになった。コロナ禍を経て、シーズンごとのファッショントレンドの変化が緩やかになり、前シーズンのファッションを継続していくデザインが増えた。22年秋冬は22年春夏からのトレンドを色濃く反映して、ファッションの実用性を強調するシーズンとなった。

 続く23年春夏も、22年秋冬からの流れを引き継いでいくスタイルが多い。その代表ともいえるのが素肌を見せるスタイル、ミニマルなライン、サルトリアルの技術を生かしたテーラードスタイルなど。シーズンごとにトレンドをそれぞれアップデートしたクリエイションだ。肌を見せていくファッションの背景にはミレニアム期に流行したY2Kファッションがあり、若年層がこの時代のファッショントレンドを意識していることが理由でもある。

継続するファッションデザイン。その象徴ともいえる肌見せのスタイル(ミュウミュウの23年春夏コレクションから)

 かつては、変化することこそがファッションという時代もあったが、それが大きく変わってきた。継続するトレンドの背景にはデザイナーの考え方の変化がある。正面切って、トレンドは継続しても良いという考え方を表明するデザイナーも登場している。

コロナ禍で加速したメンズ市場の変化

 復活したメンズコレクションで顕著だったのは、ドレススタイルの市場の変化だ。手仕事の技を取り入れたメンズテーラーリングは、かつてメンズのセレクトショップの花形商品だった。メンズの売り場の最高級ゾーンがいわゆるクラシックなテーラーリングで、デザイナーブランドはそれとは別のセクションにあった。

 しかし、テーラーリングを柱とする企業は、コロナを経て戦略の見直しを迫られている。それはビジネスマンの仕事のスタイルやライフスタイルが大きく変わったから。このカテゴリーの市場が縮小していくのは、以前から指摘されていた。しかし、徐々に縮小していくとみられていたこの市場は、コロナ禍によって一気に進んだ。テーラーリングに強みのある企業は、その特徴を生かしながらも、ファッションとしての新しい要素をいかに取り入れるかが大切になっている。

ダブレットは雪を降らせる演出のショーでパリに復帰した

膨らむインフルエンサービジネス

 本格的なフィジカルの復活となった23年春夏コレクションで象徴的だったのは、インフルエンサービジネスの拡大が進んだこと。有名人にブランドの新作を着てもらい、SNSで発信してもらう宣伝はすっかりと定着した。今や、ラグジュアリーブランドを中心に、ブランドのアンバサダーを奪い合うような状況が生まれている。

 SNSによってインターネットでバズらせてビジネスを作る。巨大なフォロワーを持つインフルエンサーの発信力を生かしたマーケティング手法がブランド側にとって重要になっている。それは、インターネットの普及によって弱まったメディアの影響力も関係している。メディアでの広告宣伝よりも、ダイレクトにユーザーへメッセージを届けられるからだ。

 そんな時代の流れを象徴するコレクションを見せたのは「ドルチェ&ガッバーナ」の23年春夏。米国のセレブリティーでありソーシャライツのキム・カーダシアンに、コレクションのキュレーションまでを任せた。このほかにも多くのブランドが、インフルエンサービジネスのためのショーをした。

キム・カーダシアンがキュレーションしたドルチェ&ガッバーナの23年春夏コレクション

 コレクションが、かつてのように新しい美しさを提案する場ではなく、ネットでバズらせるための宣伝の場の位置付けに変化している。それがファッションウィークに対する閉塞感となりつつある。

デザイナーたちの創造の力が不可欠

 本格的なフィジカルのファッションウィークの復活に伴い、再びその流れに合流していくブランドがある一方、再開したファッションウィークには合流せず独自のスタンスで発表するブランドもある。フィジカルの持つ力を実感しつつも、以前と同じやり方はしたくないと、新しい見せ方を模索するデザイナーたちだ。

 新しい見せ方を指向する理由には、現状のファッションウィークの閉塞(へいそく)感もある。新しい美しさを競い合うよりも、シーズンごとに継続していくデザインが主流となった。新しいファッションを提案する場ではなく、インフルエンサーを起用した宣伝の場となった。こうしたファッションウィークの変化が、新しい見せ方を選ぶ要因となっている。

 23年に向けて、ファッションデザインはどう変わっていくのであろうか。閉塞化するファッションの流れを変える新しいデザインを指向するブランドは増えるのか。フィジカル復活を経て、ファッションウィークが以前のような輝きを放つためには、デザイナーたちのクリエイションの力が不可欠だ。



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