ワコールのメンズインナーの柱商品が「ブロスバイワコールメン」。22年春夏物では、ブランドの最重点商品であるボクサーブリーフに、旭化成のリサイクルストレッチファイバー「ロイカ®EF」を採用した。「ロイカ®EF」は、廃棄されていた不要糸を原料として再利用した環境配慮型素材であり、これに再生ポリエステル糸を組み合わせ、環境に優しい素材としてアピールする。とはいえ、「環境に優しいから価格も高い」では通用しない時代。ブロスバイワコールメンの担当者は、最終製品まで生産の枠組みを1から作り変えた。市場に商品が並んで約1年。「ロイカ®EF」を選んだ理由、今だから語れる開発秘話を、ブロスバイワコールメンのMD、企画担当者に聞いた。
●MD担当=メンズインナー商品営業部 商品営業課 三井郁宏さん
メンズインナーの国内市場規模は2300億円くらいでしょうか。カジュアルSPA(製造小売業)チェーンが半分以上のシェアを占めていると思いますが、ベターゾーンの商品に限れば、多くのアパレルメーカーが独自技術を駆使しながら付加価値の高い商品を開発・販売しています。ライセンスブランドも数多くあり、存在感を示しています。
この10年、市場規模はそう大きく変わっていないと分析していますが、率直に言ってワコールのシェアを伸ばせていないのが現状です。当社のメンズインナーの主力ブランドは、主に百貨店向けの「ワコールメン」とチェーンストア中心の「ブロスバイワコールメン」が柱。ワコールメンは、21年秋に発売したレース使いの「レースボクサーパンツ」が大きな話題を集めました。近年のジェンダーレス化、男性の下着への意識変化などうまく捉えた「時代の半歩先を行く商品」だったと自負しています。ワコールメンに限れば、昨年4~12月で前年同期比1.5倍の売れ行きとなっています。
ただ、こうしたメンズインナーの新しい潮流を広げていくには、トレンドに敏感な人だけでなく、もっと多くの人に「メンズインナーってこんなに素敵なんだ」と思ってもらわねばなりません。その意味でも、全国900店舗以上のチェーンストアを中心に販売するブロスバイワコールメンをいかに伸ばすかが課題でした。時代の要請である環境への対応は不可欠ですが、同じくらい重要なのが価格と価値のバランス。「環境に優しい分、価格も割高」では、なかなか世に広げていくことはできませんから…。こうした厳しい条件をバランス良くクリアできる素材が「ロイカ®EF」だったわけです。
単に環境配慮素材を使用すること以上に、ストレッチファイバーを環境配慮材料にすることに意味があると考え、「ロイカ®EF」を採用した新製品の開発を検討しました。「ロイカ®EF」はリサイクルストレッチファイバーでありながら、バージンのものとなんら違いがないことも素晴らしさだと感じています。
「ロイカ®EF」は、旭化成さんの展示会で出会い、“世界初の環境配慮型のストレッチファイバー”であることや、トレーサビリティに信頼性があることから興味を持ち、採用の機会をうかがいつつ、当時の旭化成さんの営業担当者から情報収集はさせていただいておりました。新しい定番商品を開発しようというタイミングでようやく新製品に採用する機会が訪れ、22年春からメイン商材であるボクサーブリーフに採用したという経緯です。
からだに最も近い衣類である下着は、フィットさせるためのストレッチ性(伸長性・回復性)が重要です。そのため、下着はストレッチファイバーとともに革新してきたものと捉えています。販売中のボクサーブリーフにおける「ロイカ®EF」の混率は10%程度ではありますが、ストレッチファイバーを環境配慮型に変えていくことが、いかにも下着メーカーらしいアプローチだと考え、新しい定番商品に「ロイカ®EF」を採用しました。本来は全てを変えていくべきという考え方もありますが、製品コストが上がることもあり、今回はその先駆けとして、「一番売っていこう」としている商品を環境配慮型に変更することにしました。
課題は、最終消費者に商品の特徴をどう伝えていくかにかかっています。セルフ販売中心のチェーンストアでは、対面で訴えることができませんし、店頭のPOPや商品タグでの説明には限界があります。WEBやSNSを通じ、環境対応と価格の両立を目指したブロスバイワコールメンの良さをしっかりと発信していくことが今後の大きな宿題です。
●デザイン担当=メンズインナー商品営業部 商品企画課 増田はるみさん
最初に旭化成さんからお話を頂いた時、「ロイカ®EF」が環境配慮型素材であるということは理解できましたが、実際に採用を決めるまで、正直不安もありました。特にインナー、ボクサーブリーフの要である「伸度」に多少の心配があったわけです。特にブロスバイワコールメンは、ジャストフィットが生命線。環境配慮型素材の分、厳しい当社の品質基準をクリアできるかなと…。幸い、サンプル段階で十分満足できる結果が得られ、私たちの期待に「ロイカ®EF」は十分応えてくれました。
懸念は、定番物で1500円という価格と価値のバランスを守るために、メンズインナーでは初めて編み立て・縫製をASEAN(東南アジア諸国連合)で行うという点にありました。縫製工場は婦人肌着を多く取り扱っておりますが、メンズインナーを縫うのは初めてのこと。ウエストテープの縫製などメンズインナー独自の縫製工程に対応するため、新機材の導入などの工夫を凝らしました。旭化成さん、社内の技術部門や海外工場などの様々な人たちの協力を得て、完成した商品だと思っています。
ブロスバイワコールメンならではの設計にも注目して下さい。「フロント快適設計」は、縫い目が男性部に当たらないように配慮した設計です。フロント部分も締め付けず緩すぎないバランスを重視しています。後ろハギの肌当たりの良い仕様も特徴ですね。
シンプルな商品だけでなく、店頭の新鮮さを損なわないように、デザイン物やトレンドカラーを意識した色柄物も揃えました。1月からは、一部店舗にレース使いの商品も投入しています。チェーンストアのメンズインナー売り場も、かつてのような代理購買中心では無く、家族で来た男性が自家購買するなど大きく変ってきています。レース使いの商品に関心を持ち始めた人、価格の高さからレース物に手を出せなかった人など、新しい顧客の広がりに期待しているところです。
相手先の素材が変っても、安心して使えるという点もロイカEFの良さの一つでしょう。これからも新しい環境配慮型素材が出てくるはず。知恵を絞りながら、環境対応と価格・品質の両立を目指していきます。
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