山縣良和のファッション表現をひも解く展覧会 アーツ前橋で開催

2024/05/02 15:00 更新


 前橋市の芸術文化施設、アーツ前橋で、展覧会「ここにいてもいい リトゥンアフターワーズ 山縣良和と綴るファッション表現のかすかな糸口」が始まった。日本の産地との物作りを通じ、ファッション表現にとどまらない社会的情勢に向き合ってきた山縣さんのクリエイションを伝えるものだ。「リトゥンアフターワーズ」で発表した初期から同展のために制作した最新作を展示している。6月16日まで。

(須田渉美)

 展示スペースは合計約2000平方メートルに及ぶ。入り口を入ると、吹き抜けになった1階の天井から地下1階へと、ギンガムチェックの生地で作った巨大なつるし雛が来場者を出迎える。1階は無料ゾーンの第0章として開放し、スケッチや様々な資料などを並べ、制作のバックヤードを紹介する。

新作では「シンプルに子供の成長を願うつるし雛を制作した」と山縣さん

 過去の作品を振り返って感じるのは、メディアのような存在でもあることだ。国内外で起こっている事象を発想源としながら、もののけやファンタジーを感じさせる形へと発展させてきた。19年に東京・上野公園の噴水広場で発表した「フローティング・ノマド」は、造形性に富んだ美しいドレスのコレクションだが、背景には、内戦で住む場所を失ったシリアの人々の状況に心を動かされたことがある。

19年に発表した「フローティング・ノマド」

 新作の一つは、たくさんのタヌキのはく製が伊勢崎銘仙などの反物を担ぎ、トラックやスケートボードに乗って進んでいく光景だ。「今も産地として存在している」群馬県で展覧会を開催するに当たってリサーチを行い、「ファッション産業、繊維産業を担ってきた街が、どういう風に前に向かうだろうと考えた。タヌキをスケートボードに乗る若者に例えて、若者たちが帰ってきた感じなどを、即興で作っていった」と山縣さんは話す。

タヌキのはく製が群馬県で作られた反物を担ぎ、トラックやスケートボードに乗って前に進む光景を作品に

 つるし雛は、最終章「ここにいてもいい」の作品となる。昨年、山縣さんに子供が生まれ、「目の前のことでいっぱいいっぱいになる中で、シンプルに子供への成長への願いや祝福を込めた」という。新しい家族を迎える喜びが、見る人の心に温かな余韻を残す。

「変容する日常」では、群馬県内の空き家などから使い古した家具などを4トントラックで運び、過去の作品とともに展示

 キュレーターを務めた東京芸術大学准教授の宮本武典さんは「山縣さんは、今の時代を鋭敏に切り取る表現者と見ています。群馬県の地域の人たちは、繊維産業に携わる人が多いので、ファッションや素材のこともよく知っているし、興味を引く現代アートであると思う」と話す。

一階は、山縣さんのスケッチやアトリエの資料などを並べた制作のバックヤードを無料で開放している。左からキュレーターの宮本武典さん、山縣さん、出原均アーツ前橋館長

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