東京は、やはりメンズブランドに勢いがあって面白い。東京らしいテイストミックスのストリートスタイルだけでなく、幅が広がっている。メンズサイズをそのまま女性が着る表現や、ユニセックスとしての打ち出しも増えている。(五十君花実)
苛立ちを布使いに込めて…サルバム
1シーズンぶりに東京で3回目のショーをしたサルバム(藤田哲平)は、切迫感ややり場のない衝動が噴き出したようなショー。服にぶつけられた藤田の感情が強烈にエモーションを揺さぶって、心がざわざわ騒ぐ。
ドレープのきいたジャケットは端からほつれた布がのぞき、パッチポケットは端まできっちり留められずに裏返ってべろりと垂れる。深いV開きのトップやワイドパンツにかけたロックミシンも、勢いにまかせて思いのままにミシンを走らせたような印象だ。
苛立ちや怒気のようなものが漂うが、服自体は重苦しくなく、文字通り風をはらむ軽さがある。袖の下を縫わずに、ケープのようになったジャケットやトップは歩くたびに袖が揺れ、チュニックも深いサイドスリットから生地がなびく。縫製やボタン留めの替わりに、シルバーのピンでオーバーサイズのセーターにドレープを寄せたり、ジャケットのフロントを留めたりといった、突き放したような表現もポイント。
17~18年秋冬は、伊フィレンツェで、ピッティ・ウォモ会期中に招待デザイナーとしてショーを行うと発表した。
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デビューショーのベッドフォード(山岸慎平)は、ドレープをきかせた艶っぽい男のエレガンスを見せた。切りっぱなしのディテールやスリット、デコンストラクトな感覚を取り入れて、ストリートにも似合う粗野なムードを混ぜていく。カーディガンのような軽さで肩から流れるテーラードジャケットやコートに、共地のスカーフと着こなすレジメンタルストライプのブラウス。
ジャケットは胸の下まで入ったスリットからインナーがのぞき、バックは生地を折り畳んでアシンメトリーに流す。ミッドナイトブルーのサテンのパジャマスーツも色っぽい。コットンタッチのロングシャツであっても、ボタンが斜めに走るパターンがドレープを生んで、カジュアルな印象にはならない。ストリート由来のミクスチャースタイルが強い東京のメンズのなかで、大人っぽいエレガンスがユニークに映る。
プラスチックトーキョー(今崎契助)は、ランウェーに置かれたテーブルセットを、正装のギャルソンが片付けるパフォーマンスでショーがスタート。ランウェーを歩いてくるのも、ブラックスーツのモデルだ。ブランドイメージとの間に違和感を覚えていると、徐々にフォーマルなスタイルが解体されていく。裏地を表にし、背中が大きく開いたテーラードジャケットに、フロントだけジレを重ねたようなシャツ、スラックスとカーゴパンツのドッキング。そこに、プードルとシャンデリアという、なんとも高級そうなモチーフを組み合わせたポップなプリントを差してポイントにする。
チャーミングで、売れそうなアイテムもいっぱい。得意のプリントの混ぜ方も面白い。ただ、アイテムドッキングやインサイドアウトなどのやり方は、デザインの常套(じょうとう)手段とも言えるもの。ここにもう1パンチ、ブランドらしい遊びがあると、強さが更に際立ってくる。
エトセンス(橋本唯)は、ベーシックウェアを軸にしたクリーンでエフォートレスなスタイル。レイヤードやレイヤード風に見えるデザインで変化を付ける。片袖のみのトレンチコートはインナーのストライプシャツの袖を見せて着こなし、MA-1ブルゾンはフロントだけアウターを2枚重ねているように見える仕様。サックスブルーに濃いパープル、ダークグリーンといった色のバリエーションは、メンズブランドではあまり見ないもの。きれいだが、ショーで見るとややインパクトに欠ける印象。
ネーム.(清水則之)は、フォルムの変化やレイヤードによって、ベーシックウェアのバランスを変えていく。ロングスリーブのシャツの上に半袖シャツを重ね、それをハイウエストパンツにインしたり、シャツの上にインナーのランニングトップを重ねたり。デニムパンツの上に更にワイドのデニムパンツをはくといったエクストリームレイヤードまである。スタイリングを担当したのは山田隆太。
(写真=加茂ヒロユキ、大原広和)