「ファッションは本来楽しいもの。もう一度そこに立ち返ろう」というムードが世界的に広がりつつある。大企業による寡占化が進む中で、「コシェ」「ヴェットモン」に代表されるユース(インディペンデントな若手デザイナー)のムーブメントが出てきたことはその象徴だ。そうした気分を反映し、東京コレクションでもファッションの自由で前向きなパワーを楽しもうという表現が広がっている。(五十君花実)
自由でポジティブなパワー…コシェ
アグレッシブなストリートマインドと繊細な手仕事を融合して、新時代のファッションをリードしている仏のコシェ(クリステル・コシェ)が、同ブランドを扱うHビューティ&ユースの招待によって東京でショーをした。ショッピングセンターなどの公共の場でショーをしているパリと同じく、東京でも会場に選んだのは原宿のとんちゃん通りだ。
ファッションショップや飲食店が立ち並ぶ小道に、17年春夏と16~17年秋冬をミックスしたモデルが歩いてくる。招待状がなくても誰でも見ることができ、誰であろうが全員立ち見。本職のモデルに混じって、植野有砂、シトウレイといった東京のスタイルアイコンや様々な個性の一般人も登場し「友達のあの子が出ている」といった歓声があちこちであがる。
ファッションとは本来、ラグジュアリービジネスが相手にしているような一部のお金持ちのものではなく、全ての人のもの。自由でポジティブなパワーにあふれたもの。みんなファッションを楽しもうよ。そんなメッセージをパリのストリートショーから発信しているコシェだが、閉塞(へいそく)感の漂う今の日本のファッション市場にとっても、彼女のメッセージは胸に刺さる。純粋にワクワクするショーだった。
新イメージのストリートスタイル…ミントデザインズ
ミントデザインズ(勝井北斗、八木奈央)が、旬な気持ちをのせたパワフルなショーを見せた。ストリートクチュールのムードや自由にファッションを楽しもうとするマインドを、ブランドらしいクリーンな感覚とユニークなテキスタイルで表現していく。ビッグサイズのフーディーやジップブルゾン、ずるっとしたワイドパンツのレイヤードスタイルを、星柄とストライプを組み合わせたカットジャカードやフィルムプリントのドットを載せたギンガムチェック、ブランドロゴのグラフィティープリントで仕立てていく。シューレースのような編み上げのディテールで作るアシンメトリーなバランス、ギャザーやフリル、透け感のある素材の重ねといった要素は、ずばりトレンドにもはまってくる。単にトレンドをなぞるのではなく、ミント流に解釈してブランドとして新しいイメージに踏み出している点に好感。
ドレスドアンドレスド(北澤武士、佐藤絵美子)は、スーツやシャツ、ポロシャツといったプレッピーに通じるベーシックアイテムを、ビッグフォルムに作り変える。過剰なビッグフォルムはヴェットモン以降トレンドになった要素だが、そこにフェティッシュな感覚や抑制されたエロチックさを差して違和感を生むのがこのブランドらしい。スーツ姿の男性モデルはインナーのシャツを2枚重ね、肩の張り出したダブルフロントのテーラードコートとシャツの間には、肌色のパワーネットトップを挟む。女性モデルは、ジャケットにタイトスカートという一見働く女性の通勤スタイル。ただし、ラップスカートは太ももまでスリットが開き、インナーのポロシャツは袖がずるずると伸びる。メタリックフレームの眼鏡も、ストイックでどこかフェティッシュだ。
刺繍アーティストの有本ゆみこが手掛けるシナ・スイエンが、14年春夏、15~16年秋冬以来3度目となるプレゼンテーションを行った。古いきもの地やインドのサリーを思わせる地、チャイナドレスのようなサテンを切り替えたドレスに、細かな刺繍や箔{{はく}}プリントを重ねる。基本的に全て一点物だ。少女のようなピュアな感覚と大人の女性の色気が入り混じり、夢見心地な浮遊感がある。ただし、作品一点一点をしっかり見せたいという意図は伝わってくるのだが、モデルの歩く速度が非常にゆっくりとしていて、すてきなドレスであっても徐々に冗漫な印象になってくる点が惜しい。
デビューショーのレオナード・ウォン(レオナード・ウォン)は、アヤバンビによるダンスパフォーマンスでショーがスタート。レザーや布帛を切り替えたり、パネル状に重ねたりといったテクニックで作る、ブランド設立以来得意としてきたシャープな印象のスタイルだ。ニットと布帛をドッキングしたベアショルダーのブラウスなどは新味も感じられるが、さらにデザインの引き出しが広がれば、ブランドとしてステップアップしそうだ。(写真=加茂ヒロユキ、大原広和)