三共生興が成長に向けてアクセルを踏み込んでいる。昨年、「世界で最も美しいプリント」と評されるフランスのパリコレブランド「レオナール」を買収。英国ファッションブランド「ダックス」とともにアフォーダブル(手が届く)ラグジュアリーブランドとして世界戦略を加速する。
国内では不採算店の閉鎖や在庫の圧縮、正価販売の強化など構造改革を進め、業績は好調だ。今期が最終年度の中期経営計画「CHALLENGE NEXT 100」で掲げた経常利益目標(25億円)を前期達成し、30億円に上方修正した。今後の成長戦略や目指す企業像を井ノ上明社長に聞いた。
成長は海外で
― 攻めの経営が目立つ。
昨年、50年以上パートナーとして取り組んできた「レオナール」を買収しました。「ダックス」と大きなシナジーが出せます。7月、香港の有力商業施設「ハーバーシティ」に両ブランドの新店を隣り合わせで出します。
連結営業利益に占める海外比率が高まり、今期は66%となる見通し。国内での成長は限界があり、海外で伸ばします。
―レオナールを買収した理由は。
レオナールのプリント技術へのこだわりはすごいです。パリには5000点を超えるアーカイブデザインがあり、大きな資産です。デジタル全盛の時代に、職人が1枚1枚手捺染で染める。誰もこの分野に参入しません。世界でも競合が少ないブルーオーシャンで、今後もっと伸ばせます。
今期はレオナールに投資します。7月の香港に続き、10月、東京・表参道に世界最大規模の旗艦店をオープンし、インバウンド(訪日外国人)を含め幅広い層にアピールしていきます。新たな顧客層の開拓がテーマで、特に30、40代に広げたい。そのため休止していた「オペラライン」を復活します。また、表参道店にはプレスルームも併設します。現在多くの芸能人が着用してくれており、スタイリストさんとのつながりをさらに深めることでメディア露出が増え、多くの方に認知していただけると期待しています。
パリの旗艦店は、移転し、1フロアで表現できる物件を探しています。国内のEC限定で販売する「レオナールスポーツ」を、世界でも販売します。パリ店での先行販売が好評で、ドイツの代理店からの要望も強い。アジア、欧州など世界に向けたブランドにします。
―ダックスは新クリエイティブディレクター(CD)を起用した。
ダックスの創業は1894年で、来年が130周年。そのアニバーサリーコレクションのCDとして、ルック・ゴダディン氏を起用しました。コレクションの中身を再構築し、ブランドポジションを高めます。
先日京都で開いたレオナールのVIP顧客を招いたイベントでは大倉陶園と協業し、レオナールの花柄の茶器を出しました。日本橋三越本店でのイベントではその茶器やブランド初となるレオナールの子供服を紹介しました。伊勢丹新宿店や阪急うめだ本店では「アップサイクル」をテーマに期間限定店を出させて頂くなど、買収後、様々なお話をいただき、できることが広がっています。
― ブランド事業の収益力が高まってきた。
国内では「ダックス」「レオナール」ともに思い切って品番、在庫を減らし正価販売を強めました。正価販売率が7割を超え、利益に貢献しています。しかし反省もあります。商材を絞ったことでお客様に十分な商品やサービスを提供できていないのではとの問題意識です。市場が回復する中、ダックスやレオナールの商品を充実し、もっと楽しんでもらえるMDにします。ただ過剰には作らない。適量を計画的に生産、販売し、正価販売率7割は維持します。
コロナ下で始めたダックスやレオナールのパーソナルオーダー会は非常に好評で正価販売強化と顧客満足を高めるロールモデルになりました。店頭スタッフと会話を楽しんでもらいながら顧客様ひとりひとりのニーズに合ったカスタマイズ商品を提供するイベントです。ノベルティも好評で今後も力を入れます。
すごい会社
― 経営で意識していることは。
「上を目指す」のが三共生興のDNAです。商社でありながらダックスやレオナールなど世界で戦えるブランドを取得し、高級ブランドに育てています。中国ではダックスの出店を加速し、40店規模にまで増えました。これは他の欧州高級ブランドと同じポジションに位置付けられているからです。
OEM(相手先ブランドによる生産)でも高価格帯、付加価値商品が中心です。優秀な人材を武器に、営業力と短納期を実現する対応でOEM事業が復調しています。ブランド事業とOEMに、不動産事業を加えたポートフォリオで安定成長します。
経営判断のスピードも早めています。縫製工場の北陸三共生興とダックスやレオナールの国内販売を担う三共生興ファッションサービスの経営陣の交流を図りました。ライセンスライン「レオナールファッション」にとって北陸三共は命です。他には真似できない技術力に磨きをかけ、品質やスピードの向上、ラインの増強などの判断を素早くできる体制に変えました。
―長年社会貢献活動に取り組んでいる。
三共生興はすごい会社です。経営が苦しい時も63年間連続で配当を続け、三木瀧蔵奨学財団に加え、サンライズ財団を設立し、継続的に社会に貢献しています。企業は利益を出すだけでなく、社会に還元することが大事。従業員には「毎日の仕事が社会貢献につながっているよ」とことあるごとに話しています。その企業文化が根付いています。
― 人材育成の方針は。
私が旗艦店出店にこだわるのは、香港や上海での旗艦店立ち上げを機にダックスが成長していくことを目の当たりにしたからです。海外でブランド事業に挑戦し、素晴らしい経験ができました。こうした体験、経験を若い世代にもさせてあげたい。
三共生興は、上を目指し、世界を舞台に挑戦できる商社です。ベースアップと定期昇給分を合わせて、単体では平均5%程度の賃上げを実施し、働きやすい環境作りにも取り組んでいます。性別や国籍関係なく、意欲と能力のある人を公平に登用する、それがグローバルな人材活用につながり、さらなる成長につながると信じています。
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