【トップインタビュー】YKK 大谷裕明代表取締役社長

2018/07/25 06:00 更新




 YKKは現在推進中の第5次中期経営計画(17~20年度)でファスニング事業を飛躍的に成長させている。最終年度にはファスナーの販売本数128.8億本(前期は約95億本)という目標を掲げる。これはYKK史上、最もハードルの高い挑戦的な目標だ。品質を強みに世界でその地位を確立してきたYKK。前中計から、課題だったコストと納期の競争力を磨き続け、市場のボリュームゾーンにも通用する「安かろう、良かろう」のファスナーを作る力を身に付けてきた。高品質・高機能が求められる市場から、コスト、スピードが求められる市場まで多様な要望に全方位で応えられる態勢が整いつつある。

市場のボリュームゾーンに挑む

―第1四半期の状況は

 4、5月のファスナーの販売本数、売り上げ、利益はいずれも計画通りです。本数は4、5月累計で前期より伸びており順調に進んでいます。伸ばした国、地域の多くが中国と、その他アジアの二極です。販売本数ベースですと、その二極で全体の4分の3を占めます。前期も中国とアジア地域で拡販し、かなり弾みがつきました。その流れが今も続いています。

 とはいえ、目標に掲げる数値はかなりチャレンジングです。YKKは80年をかけて、年間75億本のファスナーを売る力を付けてきました。それをたった8年間でほぼ倍増させようとしているわけですから。

 ただし、市場のボリュームゾーンを《スタンダード》と表現し、スタンダードに合わせたものづくりをしようと取り組み始めてから、社内の意識は大きく変わりました。最も多くの人々が使っておられる衣料品やかばんの市場こそが世界標準であるに違いないと考え、需要のある国、地域での増産や、生産性を高めた設備の開発を加速させています。

 創業者・吉田忠雄の経営思想に必ず出てくる言葉は、「より良いものをより安く」。「良いものをより安く」作るのではなく、「《より》良いものをより安く作って提供し、お客様に貢献するんだ」ということです。スタンダードへの挑戦は、創業者の精神に基づいているのです。

―ものづくりが進化している

 「より良いものをより安く」そして「より速く」作る上で、ファスナー専用の生産設備を開発する工機技術本部の存在は大きい。生産性の高い機械および生産ラインをどんどん世界に出してくれましたので、従来より低コストで速く作れるようになりました。

 こうした取り組みは必然的でもあります。中国はもちろん、最近はベトナムなど他のアジアの国々でも、力作業を極力無くしていって、自動化していくことが従業員への貢献になるわけです。それが結果としてコスト削減にもなっています。

 創業者のものづくりの思想にもあるのですが、メーカーとして稼働率100%、不良率0が究極の目標です。その域に達していない限りは、まだ進化の余地はあります。今、最低でも8時間は止まらない設備をつくろうとして、ファスニング事業本部と工機技術本部が一生懸命取り組んでいるところです。

2017年12月に増築工事が完了したYKKインド社ハリアナ工場

日本発、唯一無二の商品を世界へ

―日本の組織を変えた

 4月の組織改編で、ファスニング事業本部にジャパンカンパニーを新設しました。7月1日には日本における販売子会社であるYKKファスニングプロダクツ販売をYKKが吸収合併しました。国内の開発、製造、販売の全てを一気通貫で見ることにより、お客様のご要望が迅速に、正確に開発と製造の担当者に伝わるはずです。

 一方で、しっかりと守らないといけないこともあります。60~70年間にわたって、私たちを支えてきて下さった代理店の方々に対しても、今まで以上のサービスを提供していきたいと考えています。

閉じる・開くの両操作を容易にしたファスナー「QuickFree」

 量的な成長の中心は海外に移っていますが、海外でのものづくりの基盤となる生産技術の根幹はやはり日本の黒部事業所です。生産技術の力は製造がないと育たないので、日本での生産量をこれ以上減らすわけにはいかないと思っています。かと言って、海外で作っているものと、黒部で作っているものが同じなら、必然的に生産量は減っていきます。ですから、日本発で新しい商品をどんどん開発していきたい。

 極端な話ですが、世界で唯一無二の商品だったら、エアーで送ってコストが膨らんだとしてもお客様は納得してくれるはずです。新商品は市場に出した途端にコモディティ化すると覚悟しないといけないので、そうなる前に日本で次々と新しい商品を開発し、コモディティ化すれば海外で作る―というサイクルを構築することが理想です。

黒部事業所内のYKK R&Dセンター

地産地消の時代へ対応

―ファッション産業のこれから

 昔のように地産池消の時代が来るかも知れないと思っています。だからこそ、ある現状だけを見て、特定の地域だけで戦略を構築することは考えていません。今、ファストファッション、ECが台頭し、ものづくりのサイクルが短く、速くなる中、消費地も生産地として有効に使おうという動きがアパレル産業の中で起ころうとしています。市場の規模、お客様の企業規模だけを基準にせず、グローバルなものの流れを常に重視して見ておくようにと世界の各事業会社には話をしています。行き着くところは、納期と価格を天秤にかけた縫製マップの多様化。これはアパレル産業のソーシングと消費のバランスによって近未来に変化していくでしょう。

 従来のアパレル生産の延長線上だと、中国やアジアでの生産量ばかりが大きくなるイメージでしたが、そうではなくなってきました。スニーカーやTシャツが米国やドイツなどの消費地で自動生産される時代です。今後10年のタームで見ると、もっと複雑な縫製品でも、より消費地に近いところに生産拠点がある時代になるような気がします。

 日本だって例外ではないでしょう。ロボット、AIの進化によって、日本にもアパレル生産が戻ってくるかも知れない。ありえない話ではないのです。その時には黒部での短納期化を達成しておきたいと思っていますし、世界約70カ国・地域に拠点を持つYKKの強みを発揮し、お客様に貢献できるのではないかと期待しています。

Profile

1959年11月27日生まれ、兵庫県出身。82年3月甲南大学経済学部経済学科卒業/同年同月YKK大阪支店入社/84年12月YKK香港社/2003年7月YKK中国社/05年2月YKK深 社社長/11年7月上海YKKジッパー社社長/14年4月YKK副社長・ファスニング事業本部長/14年6月YKK取締役副社長・ファスニング事業本部長/17年4月から現職。

(繊研新聞本紙7月18日付け)




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