【パリ=小笠原拓郎】「コムデギャルソン」の新しいコレクションをどうとらえたらよいのだろうか。静かな音楽とともに登場するのは、ここ数シーズンにも共通する抽象のフォルム。そのアブストラクトな服は、何かに対する攻撃性を感じさせるものでもなければ、声高に異質の美を主張するものでもない。むしろ、抽象の概念で静かに包み込むような寛容さをもっている。同じ抽象のフォルムのコレクションであっても、14年秋冬の「モンスター」であれば、もっと現状に対する怒りが込められていたし、16年春夏の「ブルーウィッチ」であれば謎めいた美しさをはらんでいた。そのいずれでもなく、淡々としながらも、どこかはかなげで慈愛に満ちた雰囲気を感じさせる。
その抽象のフォルムを形作るのは、繊細な手仕事と粗野な風合いの両面を感じさせる質感。白と黒の大きな頭巾がそのままドレスのようになるのは、粗く編んだ黒いニットをプレスでつぶしたような素材感。頭をすっぽりと包む抽象フォルムのアイテムには、資材のように見えるまだらのグレー。しかし、その素材はカットワークレースにレースを重ねてオーバーペイントしたもの。まさに繊細さと荒々しさの両極のバランスがある。
たくさんのフラワーレースを重ねたアイテムやフラワージャカードのアシンメトリードレスなど、花が象徴的に使われる。中でも特筆すべきは、コートとドレスが一体化したかのような黒と白のルック。黒い外側と白い内側のいずれもが、びっしりと立体的な手刺繍で花を描く。インドで何カ月もかけて刺繍された生地を、惜しげもなく抽象のフォルムにのせて、迫力のエレガンスを生み出す。
「今の世界の状況は悲しいですが、ただ嘆くのではなくて、服を作ることで時代に寄り添いたい」と川久保玲。その言葉を聞いた時、コレクションに宿る慈愛にも満ちたたたずまいの意味が分かったような気がした。