22~23年秋冬ニューヨーク・コレクションは、構築的な要素に流れるような動きや手仕事を加える方向性が主流となっている。ドレスアップを再開しつつある今の気分には、そういう服が合っているのだろう。スポンジのような感触のストレッチブークレやポンチなど、構築的なシルエットを出しやすくて着やすい厚手のニットが、トレンドに合致した素材として広がっている。
【関連記事】22~23年秋冬ニューヨーク・コレクション スカート丈にバリエーション
ガブリエラ・ハーストは、ネイビーヤードでショーを行った。今シーズンは「両性具有」を考察し、性別や性差でラベル付けするのはもはや自然ではないという考えの下、コレクションを組み立てた。シンプルで明るい色の服を着せた男性モデルを数人登場させ、女性が着てもまったく違和感がないことを見せた。女性モデルが着たラインナップは、今シーズンも自立した強い女性に似合いそうな存在感のあるワードローブが揃う。レザーのトレンチコートは、レザーとシルクデシンでざっくり編んだ甲冑(かっちゅう)風のパーツを重ねて肩を強調する。同時に、袖山のみ身頃とつながった袖がひらひら動いて柔らかいニュアンスも漂う。ゴム引きのロングコート、コントラストの強い色を配したクロシェのロングドレス、カットワークを部分使いしたレザーのビュスティエドレスと、ユーティリティーアイテムや構築的シルエットに手仕事のぬくもりを加えた服は、ハーストの本領であり、時代性もある。ただ、今シーズンはその路線を取っているデザイナーが多いだけに、できれば「おお、そうきたか」と思わせてくれる時代の切り取り方と新しい手法を見たかったと思うのは、期待し過ぎだろうか。
ピーター・ドゥは、「ファンデーション」を壊すことに焦点を当てた。過去のシグネチャーともいえるシルエットを見直し、それを革新的にアップデートすることに挑戦した。その結果できたのは、クリーンで都会的な服。構築的シルエットと流れるようなラインを組み合わせながら、どきっとする要素を入れた点に好感がもてる。それこそファッションの楽しさとワクワク感を感じられるからだ。大きなテーラード襟を付けたトップは、背中を完全に露出している。おしゃれなレストランやバーに着て行って、コートを脱いで初めて気付いた人の顔を想像してみたいと思える服だ。フロアレングスのプリーツスカートは、ボタンを外して脚をちらちら見せる。ハイネックで首を包みながら、前を大きくカットアウトして後ろに向かって長くしたカーディガンは、ドラマチックにフォルムを変えた点が楽しい。
3.1フィリップ・リムは前回同様、直営店での展示会で見せた。構築性と流れるような動きを組み合わせて、巣ごもりからコロナ前の生活に戻る過渡期に合ったワードローブを揃える。リサイクルポリエステルを詰めたトレンチコートはふんわりした量感を出しつつ、ウエストにベルトを締めても良いボリュームに抑える。ブラジャーのディテールを加えたトップは、厚手のポンチ。構築的だが、ニットなので着やすい。
コリン・ロカシオのプレゼンテーション会場は、カラフルな花とキュートで楽しい服があふれていた。ふんわり膨らませた花のアップリケをのせた超ミニスカート、クロシェの花を飾った透け透けのスカートなど、ウィットとエッジが利いた可愛い服が揃う。合わせる靴とタイツもさえている。デザイナーのコリン・ロカシオはロードアイランドスクールを卒業後、マーク・ジェイコブスでフリーのデザイナーとして働いたり、セレブの服を作ったりしていた。今回が3シーズン目。
メルケは、ソーホーのホテルでこぢんまりしたプレゼンテーションを見せた。アイルランドのアッシュフォード城を訪れた時の記憶を元に、タカ狩りと羊飼いに見られる動物や自然との共生をウィットを交えて表現した。羊のアップリケを散らしたチャンキーセーター、壁紙風ジャカードと無地のニットをドッキングした超ミニスカートが可愛い。太い毛糸を甘く編んでフェルトの葉っぱを散らし、長いビーズを重ねた手仕事も魅力的だ。ニットは、女性の経済的自立を支援する団体「ココ」と協業してインドで生産し、後は全てニューヨークで生産する。デザイナーのエマ・ゲージはミネソタ生まれ。ニューヨークの大学卒業後フリーでデザイナーをし、1年半前にブランドを立ち上げた。
(ニューヨーク=杉本佳子通信員)
ニューヨークの摩天楼に輝く赤い「ニューヨーカー」の看板――トリー・バーチは、夕暮れのニューヨークの街並みを背景にしたショーの映像を配信した。ブロンディ、パティー・スミス、ニューヨークを象徴する女性たちの歌声とともに登場するのはスポーツとエレガンスをミックスしながら再構築したスタイル。ジャージートップにラメの光沢を重ね、ベージュのパンツと合わせるなど、程良くグラマラスなムードをたたえた快適なリアルスタイルが充実する。コートやジャケットはオーバーベルトでウエストをシェイプ、白い襟がアクセントとなる。ワンショルダーやベアトップのコンビネゾンなど、少しだけ肌を見せて健康的な女性美を強調する。ジャージードレスは曲線的なグラフィックをのせて布の流れにアクセントを作る。ニューヨークの街角で見かける女性たちを着想源に、シェイプやジオメトリー、カラー、コンバーティビリティーの視点から探求したというコレクション。
(小笠原拓郎)