20年春夏のメンズカジュアルは、春物の本格的な実需期となるはずの3月に外出自粛の影響で客足が遠のき、4、5月は実店舗が休業となった。商戦の大きなヤマが作れず、目立った売れ筋も見えないままシーズンは終わろうとしている。
そんな中でも、ECで動いた商品や、緊急事態宣言明けの店頭に訪れた客の購買動向を観察すると、一定量が売れた商品はある。そこにはコロナ禍ならではのヒットの理由もある。
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1位「マスク」
新しい生活様式の「ライフウェア」
メンズ、ウィメンズ問わず20年春夏もっとも売れた。2月に不織布製の通常商品がドラッグストアの店頭から姿を消すと、川辺がハンカチを使ったマスクの作り方動画を公開して話題を集め、5月にミズノが「マウスカバー」をネットで販売すると即完売となるなど、ファッション企業が手掛けるケースが増えた。
無印良品の「繰り返し使えるマスク」がECで100万枚を売り上げ、その後店頭でも販売を開始。ユニクロの「エアリズムマスク」も6月19日の発売初日に長蛇の列ができた。大手SPA(製造小売業)が参入し、品薄感が沈静化するだけでなく、常時着用がマナー化したこともあって、当面はファッション小売りの品揃えの一角を占めそうだ。
2位 ショーツ
在宅勤務で夏前から
昨夏はそれほど売れなかったショーツだが、今季は緊急事態宣言発令後にECで売れ、5月下旬からは営業を再開した実店舗でも売れた。例年のようにレジャーや休日用だけではなく、自宅で仕事をする人が増えると、楽な格好で仕事をしたいビジネスマンの需要も捉えた。
セレクトショップの店頭では「グラミチ」別注、「パタゴニア」のバギーショーツなど毎シーズン定番的に売れるブランドに加え、今春夏はストレッチの利いたコットン製のほか、水着としても使えるナイロン素材のタイプも部屋着として売れた。
3位 サンダル
ご近所履きで注目
2位のショーツ同様、自宅から近所への散歩や買い物用として散歩や買い物として購買客層が広がった。今季は「テバ」「スイコック」などストラップで足首まで留めるタイプより、「ビルケンシュトック」「アイランドスリッパー」やスニーカーブランドのシャワーサンダルなど気軽に履けるコンフォート系の人気が高かった。
4位 シェフパンツ
マス層にも拡大
もとは料理人が厨房で働く際に着用していたウエスト部分がゴムになった簡易な作りのパンツ。ジョガータイプのパンツに次ぐイージーパンツとして18年ごろに登場したが、今春夏は「ジーユー」などマス向けブランドも販売し、一気に広がった。
5位 樽型ボディーのトップ
ゆったり、すっきり
ビッグシルエットのトレンドは一巡しつつあるが、カットソーは大きめに着たいというニーズは根強い。そこで売れたのがゆったりした身頃はそのままに、裾にかけてややテーパードさせた「バレル(樽(たる))型」のトップだった。
6位 セットアップ
売れたのはジャケットだけ
Tシャツに合わせるセットアップスーツはここ数シーズン定番化していたが、今春夏はウェブ会議などで映る上半身用にジャケットのみが売れた。また、コロナ禍を経てドレスコードはさらに緩和が進んでおり、テーラードっぽい作りは敬遠された。
<番外>
「コロナ禍さえなければ…」そんなつぶやきとともに、7月に入っても店頭で動かないアイテムがあった。
その1「おみやげ系ニッポン」アイテム
インバウンド(訪日外国人)需要を見越して、今年はファッション小売りもアニメや浮世絵など日本のポップカルチャーやアートをテーマにした商品を仕込んでいた。だが、コロナ禍によって外国人観光客は激減。「お土産系」アイテムは空振りに終わった。
その2「幻のトーキョー2020」
19年のラグビーワールドカップの盛り上がりが念頭にあったためか、ファッション小売りも東京五輪に関連した商品を多く仕込んだ。しかし開催延期が3月末に決まって以降、売れ行きはぱったり途絶え、6月に店舗の営業が再開してからも、ほとんど手に取る客のいないまま7月を迎えた。